星に包まれて
どうして月が大きいの?
考える間でもないと、どうか一蹴しないで欲しい。
例えば、外界から月の大きさやあれが衛星であるという情報を取り込まなければ、ただの白いまるになってしまう。
知識はなんと価値あるものだろうと思う一方、素晴らしい先人達が解き明かしてきたそれらを、平面的な媒体上で、単なる結果として摂取するのはいかがなものだろうとも思う。
従属栄養であり続けるのは大変恐ろしく、真実と嘘の味分けがつかない。昨今の生成AIなどで話題に上がる、ハルシネーションも御多分に漏れない。
だからこそ知識に対して強くなる必要がある。さながら舌を肥やすごとく、とりあえず取り込んでみるのも重要だ、と思う。
さて、以上に書いた全ては感想だ。私には語るほどの学はない。
私が言いたいことはつまり、取り敢えず妄想しませんか?というお誘いだ。
物理法則に則って真剣に思考実験しようが、トンデモルールを加えて夢小説を書こうが、どちらも「未(いまだ)」であるから、広義では妄想とも言っていいかはわからないごめんなさい。
それで、以下が私がこのお題を受けて妄想したことである。前説が長くて申し訳ない。私のくだらない話を聞いてくれているなら、あなたは多分私の友達です。
丸がみっつ、特定のバランスで並んでいると顔に見える現象があるそうだ。名前は忘れた。
久しぶりに空を見上げた。Sサイズのコンビニの袋が重力に従ってプラプラしている。
視力が悪くなって、オリオン座の端っこが見えなくなった。誰かの顔のみっつのうちのひとつ。かもしれないのに。
そんなことを言ってしまうと、星というのは遥か先に無数にあるらしく、そのほとんどは遠すぎて目視ではとても見えない。
それを寂しく思った。私がオリオン座の端っこだとして、見える人がだんだんと限られていくことを、怖いと思った。
それを恐ろしく思った。観測できないほどの視線が私を取り巻いていると思うと、怖いと思った。
綺麗とか思った後に、そういう考えを持つようになってしまったのが嫌だった。
知ったことを手放したいと思った。SNSの怖い話とか、相続税とか。
けれども、これは結局妄想であって、「未(いまだ)」である。これ以上はやめようと思って、コンビニの袋の方を見るように歩いた。
星は顔じゃないし、月もただの白いまるじゃない。
妄想だ。私は知識を得ている。先人の恩恵にあやかって、空が落ちる心配をしなくていい人生を送っている。
けれども知識は、私の上下前後左右全てに宇宙と、そこに存在する星があることも教え込んだ。
寝る前、もう一度妄想をした。
ちゅうに浮いたような気分になって、怖かった。
夜空を越えて
____その先になにがあるの?
知らない。「明日」だったらいらないかな。
向かい合わせの机。2つで1セット。
いつのまにか傾いた太陽は、昼間よりずっと眩しい。
空のはじっこは、少しずつ夜になってゆく。
「そんな数学嫌いなん」
「誰が好きになんのあれ、まじで」
「すげー辛辣じゃん、中間そんな酷くなかったでしょ」
「だって範囲ちょー広いんだもん。人の心ないね」
「ないね、無いわ」
2人して椅子に寄っかかる。問題集は真っ白なまま開いていて、筆箱より前に、お菓子を出して食べていた。
「そもそも夜空ってどう越えんの、飛行機?」
「のぞみでも夜乗ったら行けるよ多分」
「まじかー、やば」
身のない会話は回り続ける。いつだってそう。
何を、より誰と、が大切な私にとって一番好きな時間。
「だからって夢に出てくるのは面白すぎるけど」
「なんて?」
「ばかあほたわけ」
「嘘じゃん」
けらけら笑ってるけど、今日は会ってないよ。
私の方が教科多かったから。
「おーるうぇいずびっくらぶって言ったよ」
「おー、うちもうちも」
テキトーに返す感じが我ながらそっくりだ。
テキトーに返すくせに、目はスマホじゃなくて私を見てくれるところも。
「ひどーい、私は真剣なのに。夢にまで出てくるのに」
「じゃ、夢に出すから来てね」
そういって、手を掴まれた感覚。
あれ? あの子の体温だ。
向かい合わせの机。2つで1セット。
この時期はあっという間に夜になる。
何の、より誰の、が大切だ。夢もそう。
どこでも会えるなら素敵だと思った。
明日の前に、あなたに会えるなんて。夜空を越えるのも悪くないね。
ぬくもりの記憶
ハロウィンだろう。幼少期の写真を見返した中に強烈な黄緑。ベロア生地でこの色を好んで着る幼少期など、記憶にない。
ベロア生地なのだ。まず量産されるコスチュームに(子供のハロウィン用なら尚更)使われる物ではない。
母はかつて手芸部だったと言っていた。そこまで熱心ではないと言いつつ、部活対抗リレーにウエディングドレスで走ったという話を教えてくれた。
あのころの10月末は寒かった。小さい私は、おそらく色味を合わせるために染められたインナーも着ていた。
レース生地と針金で出来た羽。「トリックオアトリート」の「ト」を言いかけて絶妙な顔をしてるけど、それはティンカーベルの仮装だった。
母の背を越した。
母の新しいPCは私がセットアップをした。
受け入れ難い母の発言に、反論ではなく無視を選ぶようになった。
それでも母は
ストーブを付けるように。とか、
カレーはちゃんと温めた?とか。
記憶ではない。まだ記憶ではない。
しかし、いつか記憶になってしまう。
その時私は、そのぬくもりを認識するだろう。
Fellow.
単語帳には仲間と載っている。右隣から不正解を笑い飛ばす声がやってくる。
デジタルで勉強しているから。ほら、ここには特別と書いてあるでしょ?
スマホを見せようとしたのは私。それを汲み取った隣人は椅子ごと身を寄せて、ぐいぐいと壁ぎわに追いやってくる。
まあまあ、似たようなもんだとまた笑う。
「仲間、仲間といったら特別てきな。そんなに負けて悔しいの〜??」
たかが単語テストの、たかが2点差で有頂天になっているやつが、どうしてそんなアバウトに言葉を括るのだ!
私にはとてもできない。あなたを仲間と思う、けれど特別とも想うこれは、ひとつの単語には括れない。
2点差は確かに大きかった。言葉少なに文句で返すのだって、悔しいから。絶対そう。
オレンジの蛍光でなぞってやった。忘れないように。
仲間なのだ。あと3ヶ月だけ。
「とっくに覚えてるっての」
覗き込まないで。そろそろ押しつぶされそう。