小絲さなこ

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8/25/2025, 8:36:52 AM

「いつもより遅い帰り道」


もうすぐ使わなくなる定期券をかざして、降りたことのない駅で降りる。
ずっと素通りしていた街。

華やかで、眩しくて。
キラキラきらきら。
居心地の悪さで、視線を落としそうになる。

鮮やかで、痛いほどに。
まるで異国のように思えた。


もうすぐ使わなくなる定期券をかざす。

────見知らぬ街
2025.08.24.

8/23/2025, 12:28:01 PM

「二十キロ」


雷が聞こえる。
毎日のように聞こえてくる空の音は、たいていあの山の辺りから。

街の雷と山の雷の音は違う。
昔はそれが実感出来たけど、ここ数年はその差が縮まっている気がする。

「ひと雨ほしいねー」

パートのおばさまが空を見上げて呟く。

スマートフォンに大雨注意報の通知。
雨雲が接近中。


「でも、たいていこっちには来ないんだよ」

ここは、護られている街だから。
なぜかぽっかりと雨雲が避けていく。

「たいてい、降ったとしても夜中だよね」

午後四時。気温三十二度。
予報は今日も当たらない。


────遠雷
2025.08.23.

8/23/2025, 9:10:04 AM


「夜のほろ酔いさんぽ」

都心の喧騒から離れて、初めてのふたり旅。
あえて駅から離れた場所のホテルを予約した。夕食なしのプランを選んだのは、夜道を歩きたかったからだ。

夜空に浮かび上がるように佇む建物の灯り。

「やっぱり、ここじゃ星は見れないね」

ほんの少しだけ期待していた。

「一応、この辺りはまだ市街地みたいだからなぁ。やっぱり山奥とか行かないと満天の星空は無理だろ」
「そうだね。でも、これはこれで幻想的だと思う」

天の川を見るのはまたの機会に。



────Midnight Blue
2025.08.22.

8/22/2025, 9:12:51 AM

「ぐるぐる回って」


彼女が振り向いて、笑顔を見せた。
流れる涙を拭いもせず、駆け寄ってくる。
抱き止めるように受け止めて、そのままぐるぐると回ってしまった。
周りの迷惑になったかと、一瞬思ったが、周囲も似たような雰囲気で、誰も俺たちのことを気にしていない。

「合格おめでとう」
「おめでとう」

「またよろしく」
「うん、これからもよろしくね」

たぶん、きっと、ずっとこれから何年どころではなく。何十年先も。
まるでプロポーズみたいなことを言いそうになってしまい、いや、今じゃ無いだろ。と空を仰いだ。

────君と飛び立つ
2025.08.21.

8/21/2025, 7:46:05 AM

「一日でも永く」

「今日のこと、一生忘れない。記憶喪失になっても」
「その言い方、フラグっぽいぞ」
「私がもし忘れても、思い出させてくれるでしょ?」

忘れてもいい。
すべて忘れてもいいから、一日でも永く隣に居たい。ただ、それだけ。

こんなこと、重過ぎて自分でもドン引きするから、言えない。言わない。


────きっと忘れない
2025.08.20.

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