「いつもより遅い帰り道」
もうすぐ使わなくなる定期券をかざして、降りたことのない駅で降りる。
ずっと素通りしていた街。
華やかで、眩しくて。
キラキラきらきら。
居心地の悪さで、視線を落としそうになる。
鮮やかで、痛いほどに。
まるで異国のように思えた。
もうすぐ使わなくなる定期券をかざす。
────見知らぬ街
2025.08.24.
「二十キロ」
雷が聞こえる。
毎日のように聞こえてくる空の音は、たいていあの山の辺りから。
街の雷と山の雷の音は違う。
昔はそれが実感出来たけど、ここ数年はその差が縮まっている気がする。
「ひと雨ほしいねー」
パートのおばさまが空を見上げて呟く。
スマートフォンに大雨注意報の通知。
雨雲が接近中。
「でも、たいていこっちには来ないんだよ」
ここは、護られている街だから。
なぜかぽっかりと雨雲が避けていく。
「たいてい、降ったとしても夜中だよね」
午後四時。気温三十二度。
予報は今日も当たらない。
────遠雷
2025.08.23.
「夜のほろ酔いさんぽ」
都心の喧騒から離れて、初めてのふたり旅。
あえて駅から離れた場所のホテルを予約した。夕食なしのプランを選んだのは、夜道を歩きたかったからだ。
夜空に浮かび上がるように佇む建物の灯り。
「やっぱり、ここじゃ星は見れないね」
ほんの少しだけ期待していた。
「一応、この辺りはまだ市街地みたいだからなぁ。やっぱり山奥とか行かないと満天の星空は無理だろ」
「そうだね。でも、これはこれで幻想的だと思う」
天の川を見るのはまたの機会に。
────Midnight Blue
2025.08.22.
「ぐるぐる回って」
彼女が振り向いて、笑顔を見せた。
流れる涙を拭いもせず、駆け寄ってくる。
抱き止めるように受け止めて、そのままぐるぐると回ってしまった。
周りの迷惑になったかと、一瞬思ったが、周囲も似たような雰囲気で、誰も俺たちのことを気にしていない。
「合格おめでとう」
「おめでとう」
「またよろしく」
「うん、これからもよろしくね」
たぶん、きっと、ずっとこれから何年どころではなく。何十年先も。
まるでプロポーズみたいなことを言いそうになってしまい、いや、今じゃ無いだろ。と空を仰いだ。
────君と飛び立つ
2025.08.21.
「一日でも永く」
「今日のこと、一生忘れない。記憶喪失になっても」
「その言い方、フラグっぽいぞ」
「私がもし忘れても、思い出させてくれるでしょ?」
忘れてもいい。
すべて忘れてもいいから、一日でも永く隣に居たい。ただ、それだけ。
こんなこと、重過ぎて自分でもドン引きするから、言えない。言わない。
────きっと忘れない
2025.08.20.