小絲さなこ

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1/1/2025, 7:10:35 AM


「最後の挨拶」


ラジオからは今年のヒット曲メドレー。
今日が今年最後の日だなんて、実感がない。
大掃除と似て非なる引越し準備は、なかなか進まない。

気がつけば午後六時半過ぎ。
続きは年明けにしよう。

ひとり分の蕎麦を茹でて、薬味と日本酒と共に食卓に並べる頃には、紅白歌合戦が始まろうとしていた。
今回の年末年始の休暇は実家には帰らない。
ひとりきりの大晦日もお正月も、きっとこれが最後だろうから。

早めに入浴して、ストレッチしながら紅白歌合戦を聴く。
友達からの「良いお年を」のメッセージに混じって届いた彼からのメッセージに返信した。

彼に年の瀬の挨拶をするのは、これで最後。

「一ヶ月後には一緒に住んでいるなんて、信じられないなぁ……」




────良いお年を

12/31/2024, 7:46:23 AM

「今年最後の」



「うぅ……しみる……」
「さーむーいー。誰だよ二年参りしようって言ったやつ!」
「お前だろ」
「俺じゃねーよ」
「誰でもいいよ。もう集まっちゃったんだし」

大晦日。二十三時。
いつものメンバー男四人で、ぞろぞろと近くの寺へ向かう。

「ちょっと早くね?」
「そんなことないんじゃないかなぁ」
「いつ行っても混んでるんだから、いいんじゃね?」
「さむいいいーもうかえりたいー」
「あ、俺カイロ持ってるよ。この前福引でいっぱい貰ったんだー」
「神!」
「あれ、期限切れてね?」
「ほんとだ。いつ貰ったやつだよ」
「えーと、去年?」
「どこが『この前』なんだよ」
「でも使えるよ」
「ああ……カイロじゃなくて、彼女であったまりたい……」
「またお前はそういう……」
「お前らには悪いけど、俺は来年は彼女と二年参りするからな」
「十二月三十日に振られる、に一票」
「じゃあ俺、二年参りの途中、来年が終わる直前に振られる、にこのカイロを賭ける」
「いらねー」
「なんで俺がいつ振られるか賭けてんだよ」
「俺は彼女出来ない、に賭けるわ。つーか、お前ら一応夜中だぞ。静かに歩け」

思えば今年もこいつらとバカなことばかりしていた気がする。

「はー……さむいさむい」
「あ、走ればあったかいんじゃね?」
「それなー。よーい、どん!」
「あ、てめぇ!」
「いきなり始めるんじゃねぇ!」
「お前ら、うるせーぞ!」

出来れば、コレがバカ納めであってほしい。

そう思いながら、俺は寺までダッシュする三人を追った。




──── 一年を振り返る

12/30/2024, 8:18:45 AM

「幼馴染と、こたつでみかん」



炬燵──それは一度入ったら出られない、悪魔の暖房器具。
幼馴染歴二十年を超える男友達と炬燵に入り、ダラダラとテレビを見ながら、みかんの皮を剥く。これぞ日本の年末年始って感じでいいねぇ。
ティッシュの上に半分に割った中身を置き、一房ずつ白い筋を取り、再びティッシュの上に並べていく。
幼馴染がそれをつまみ、躊躇うことなく自分の口の中に放り込んだ。

「ちょっと、ねぇ!」
「ん?」
「それ、私が剥いたやつだよ」
「うん。知ってる。ありがとう」
「そうじゃなくて!なんで食べちゃうのよ!」
「え、俺に剥いてくれてるんじゃないの?」
「なんでだよ。私が自分で食べるためだよ」
「そっか。悪い悪い」

そう言って彼は「ほれ、あーん」と、みかんを一房私の口元に差し出す。

「あのねぇ」
「食わねーの?」

半ば無理矢理、口の中に押し込まれてしまった。


そんな私たちのやり取りを見ていた母が一言。

「あんた達、本当に仲良いわねぇ。いい加減、結婚すればいいのに」

後半のセリフは余計だよ、お母さん!





────みかん

12/29/2024, 7:54:52 AM

「休みが合わない!」


年末年始にバイトのシフトを入れまくったことを少し後悔。
まさかクリスマスに彼女ができるとは思わなかった。

「うーん……大晦日が遅番、元日が早出かー」

元日は朝早いので、二年参りは出来そうもない。
バイト後なら会えるだろうか。

彼女に連絡すると、元日昼からバイトがあるとのこと。それなら大晦日はどうかと訊くと、昼過ぎまでバイトで、そのあと母親の手伝いがあると断られた。

じゃあいつなら大丈夫なのかと、俺の休みと彼女の休みを教え合うと、見事に休みが被っていない。

付き合い始めたばかりなのに、これってどうなんだろう。


『初詣、学校始まってからでも、行けるときに行けば良いんじゃない?』


まったく焦る様子がない彼女のメッセージ。

彼女のなかで、俺の優先順位は低いのかもしれない。
そう思っていたのだが──


『来年、休み合わせようよ』


予想以上に彼女が俺との未来を見ていることに頬が痒くなった。



────冬休み

12/28/2024, 6:48:52 AM

「手袋が必要ないくらいに」


イルミネーションはクリスマスの後も続く。
久しぶりのデートコースは街路樹が鮮やかに彩られている。

いつも見慣れているはずの通り。
子供の頃から馴染んだ街並み。
それが光と色で別の世界のものに見えてくる。


「どうした。手袋忘れたのか」

カバンの中に入ってる──言うよりも早く、彼は私の片手を掴むとそのまま自分のコートのポケットに突っ込んだ。

悪戯が成功した子供のように笑う彼。


「それじゃ、あったかいの片手だけだよ」
「あとでそっちの手と交代するし、それに──」

耳元で囁かれた恥ずかしすぎる提案に「バカ」と返す。たぶん私も耳まで赤い。


────手ぶくろ

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