「真っ直ぐに見つめる君に」
君は昔から話すときに相手の目を真っ直ぐに見つめる。
いつの頃からだろう。
君と視線を合わせることが恥ずかしくて堪らなくなったのは。
その感情がどういうものであるのか、わかっているけど、まだわからないふりをしたい。
離れたくない気持ちは段々と大きくなっていく。
ただの意気地なしだ。
君と向かい合う覚悟が、まだ出来ていない。
それなのに、君の一番近い場所は誰にも譲りたくない。
だから、膝がつくくらいの距離で隣に座っている。
「内緒話しているみたい」
くすくすと笑う君の声が耳をくすぐる。
いつかまた向かい合って座ることができたら、そのときは大事な話をしよう。
その頃には、ちゃんと自分の気持ちを認めるから。
────向かい合わせ
「君に伝えないことの罪」
こんな時、どう声をかけたら良いのかわからない。
君の恋をずっと見守っていた。
どんな時も彼だけを見つめて、信じる君の表情すべてを、焼き付けるように、刻みつけるように。
もう永遠に彼に想いを告げることはできない。
言葉を交わすことさえも。
本当は知っていたんだ。
彼が君のことをどう思っていたのか。
今それを君に伝えたら、君は彼のことを永遠に想い続けてしまう気がする。
叶わない恋だとわかっている。
君が彼への想いを断ち切ったとしても、君は僕の想いを受け入れることはないだろう。
罪の意識は永遠に残る。
いつか君が彼への想いを断ち切る時が来たとしても。
絶対に言えない秘密を抱えて、彼のことを想い、涙を流す君を見つめ続ける。
────やるせない気持ち
「なぜ夏に海に行くのか。それが問題だ」
「なぁ、なんで漫画とかの学園モノの物語って、夏に海行くんだろう。しかも絶対男女混合で行くだろ。ありえなくね?」
八月下旬。
二学期が始まった途端にフェーン現象により、最高気温三十六度になった日の放課後。
小学校からの腐れ縁である俺たち三人は、コンビニで買ったアイスを食べながら住宅地をダラダラと歩いている。
「夏といったら海だから……?」
「日本に海無し県がどれくらいあると思ってるんだよ。おかしいだろ」
「四十七都道府県のうち八県だけだろ。他は海あるんだから、海に行くのは自然な発想、自然な流れなんじゃねーの」
「海、暑いだろーが。夏行くなら高原だろーが。上高地とか志賀高原とか!」
「高原だと『水着回』にならないからだろ。ほら、『水着回』は入れておかないとさ、読書が離れていくんだよ。サービスだよ、サービス」
「そんなメタな理由嫌だ」
クーリッシュを揉みながら言い出しっぺの悪友が呟く。
「ほんっとうに海が良いもんなのか、行ってみねぇ?」
「は?」
「もう夏休み終わってるだろ」
「俺の夏は終わってねぇ!行く!行くったら行く!もちろん、女子を誘って」
「いいねー!俺たちの夏はこれからだああ!」
「誰が女子を誘うんだ?」
俺の投げかけた疑問に視線を彷徨わせてから期待に満ちた目で俺を見る二人。
「俺は嫌だからな」
「そこをなんとか!」
「俺たちを海に連れてって!」
「お前ら二人で行け!」
────海へ
「彼が教えてくれたこと」
彼と出会って知ったこと、わかったことは、いくつかある。
彼の言葉は、妙な表情と共にあって、それが私を困惑させていた。
言葉の裏とか、好きの裏返しとか、私はそういうのがわからなかったから。
嫌われているのだと本気で思っていたし、だったら近寄らないようにしようと努めていた。
それなのに、彼の方から関わってくるものだから、ますます私は困惑した。
告白されたときの衝撃といったら……
思わずお断りしてしまったけれど、それ以降は人が変わったように好意を示してくるようになり────
そして今、洗濯物を裏返して洗うか表のまま洗うかで口論になっている。
同棲初日からこれで、これから大丈夫なのだろうか不安だ、とメッセージアプリで友達に送ったところ『あなたたちなら大丈夫でしょ』とだけ返ってきた。
────裏返し
「警戒心が強過ぎる君を」
君は警戒心が強過ぎる。
少しでも近づくと逃げてしまう。
まるで小鳥のように。
君を初めて見た時の衝撃は忘れられない。
ある放課後、居残りさせられていた時のことだ。
どこからか聞こえてきた美しい歌声に誘われるようにたどり着いたのは、音楽室だった。
そっとなかの様子を窺う。
ピアノを弾きながら歌う君に目を奪われた。
あの光景が忘れられない。
どうにかしてお近づきになりたいと思っているのだが、うまくいかない。
大勢の生徒たちに混じっていても、君の声はすぐにわかる。
まるで鳥の囀りのような美しい声だから。
だが、その声のするほうへ視線を向けても、なぜか君の姿を見つけることが出来ない。
君は警戒心が強過ぎる。
別に取って食おうというわけではないのに。
やっぱり、初対面であんなこと言ってしまったからなのだろうか。
────鳥のように