小絲さなこ

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8/3/2024, 3:39:07 PM

「昨夜のことは、すべて私のせいだから」




夜が明けるまでに、この部屋を出ていかなくてはならない。
昨夜の出来事が夢だったと貴方に思わせるために。

あの夢のような時間は、夢でいい。
貴方と私は「そういう関係」には、なれないのだから。


すうすう……規則正しい寝息をたてている貴方。
そっとベッドから降りる。
手早く身支度して、昨晩の痕跡をひとつひとつ消していく。
消せないのは、私の記憶だけでいい。


ずっと、ずっと好きだったから、昨晩のことは夢だったことにしたい。
これからも、この関係を維持するために。
貴方が罪悪感を抱かないために。


貴方はまだ夢のなか。
そのままずっと、夢を見ていて。

そうすれば、私もずっと夢を見ていられるのだから。


────目が覚めるまでに

8/2/2024, 3:16:36 PM

「自堕落な入院生活」

動けないわけではないけど、動く気持ちになれない。
スマートフォンの持ち込みや使用は禁止されていないけど、触る気力も起きない。

昼間は検査と食事以外は寝て過ごしているから、消灯時間である二十一時に眠れるわけがない。


個室ではないのに、まるでひとり部屋にいるかのようだ。
静かな六人部屋に響く空調の音は、余計なものを連れてきてしまう。
手術した箇所を気にしつつ、布団を被る。


こっそりとイヤフォンをつけて聴く、ラジオの深夜番組。
いつもの声に安堵すると同時に、いつもとどこか違うようにも聞こえ、不思議な気持ちになった。


眠りにつくのは明け方。
入院しているのに、昼夜逆転している。

昼間は平気なのに、夜になると襲いかかってくるそれのせい。


────病室

8/1/2024, 3:00:49 PM


「明日が来るということは、絶望のようなもの」




『明日、晴れたらどこかに行こう』
「暑いからイヤ」

どうにかして私を外に連れ出したいアイツの誘いを突っぱねて、スマートフォンの電源を切った。


明日など来なければいい。

時が止まるより、私がこのままずっと眠り続けたほうが現実的。
それなのに、実現されないまま、季節が変わろうとしている。


いつの間にか眠っていて、朝になっていた。
あぁ、なぜ目覚めてしまったのだろう。

タオルケットに包まってため息をついていると、ドタドタと足音が聞こえてきた。

「さ、出かけるぞ!」

いくら幼馴染とはいえ、お互いもうお年頃なのだから、ノックもせずにドアを開けるのはやめてほしい。

「嫌だ。帰って!」


現実は見たくない。
夏が、来たのだ。
来なくてもいい今日を連れて。



────明日、もし晴れたら

8/1/2024, 6:31:28 AM


「恋しいのは、ひとり」



それは、始めはただの疲労の蓄積かもしれなかった。

終わりのない忙しさは、私から判断力と気力、それからほんの少しの情を奪っていく。

ただ、会いたかった時期もあったはずなのに。
何もしなくても、会話がなくても、隣に居るだけでそれでよかった。


あなたに非があるわけではない。
だから、あなたのその純粋さで息ができなくなっていく気がする。


子供の頃から休日は家でゴロゴロしていた。
ひとりっ子だし、友達もいなかったから、暇つぶしは、気まぐれに読書をする程度。
それは大人になってからも変わらなかった。

それを崩したのは、あなたと付き合い始めてから。

あぁ元々の性質が違っていたからなのか。


しばらく会えないという文字を入力する。

躊躇わず送信した私は、近いうちにあなたと出会う前の生活に戻るのだろう。





────だから、一人でいたい。

7/30/2024, 4:03:26 PM

「それって、どういうこと……」



「ずっとずっと友達だからね」

そんなことを、そんな目で言われたら、友達以上の関係になりたいなんて、言えやしない。

ずっとずっと友達。
その言葉に囚われて、動けなくなって十数年。
いまだに俺たちは友達だ。
住む街が変わっても、学生から社会人になっても。

その間、君に彼氏ができたことはない。
君はそれを嘆くけど、俺にとっては幸運でしかない。
だが、踏み込めないのは不幸でしかない。


「どうして彼氏出来ないんだろ。あたしそんなに女としての魅力無いのかな」

ぽつり。
呟いて視線を落とす君。

「そんなことないよ。むしろあり過ぎて……」

思わず口に出していて、口元を右手で隠す。


俺の顔を、君は見つめているのだろう。



────澄んだ瞳

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