「恋しいのは、ひとり」
それは、始めはただの疲労の蓄積かもしれなかった。
終わりのない忙しさは、私から判断力と気力、それからほんの少しの情を奪っていく。
ただ、会いたかった時期もあったはずなのに。
何もしなくても、会話がなくても、隣に居るだけでそれでよかった。
あなたに非があるわけではない。
だから、あなたのその純粋さで息ができなくなっていく気がする。
子供の頃から休日は家でゴロゴロしていた。
ひとりっ子だし、友達もいなかったから、暇つぶしは、気まぐれに読書をする程度。
それは大人になってからも変わらなかった。
それを崩したのは、あなたと付き合い始めてから。
あぁ元々の性質が違っていたからなのか。
しばらく会えないという文字を入力する。
躊躇わず送信した私は、近いうちにあなたと出会う前の生活に戻るのだろう。
────だから、一人でいたい。
「それって、どういうこと……」
「ずっとずっと友達だからね」
そんなことを、そんな目で言われたら、友達以上の関係になりたいなんて、言えやしない。
ずっとずっと友達。
その言葉に囚われて、動けなくなって十数年。
いまだに俺たちは友達だ。
住む街が変わっても、学生から社会人になっても。
その間、君に彼氏ができたことはない。
君はそれを嘆くけど、俺にとっては幸運でしかない。
だが、踏み込めないのは不幸でしかない。
「どうして彼氏出来ないんだろ。あたしそんなに女としての魅力無いのかな」
ぽつり。
呟いて視線を落とす君。
「そんなことないよ。むしろあり過ぎて……」
思わず口に出していて、口元を右手で隠す。
俺の顔を、君は見つめているのだろう。
────澄んだ瞳
「絶対、大丈夫」
いつ最悪な状況になってもおかしくないはず。
それなのに、自分だけは大丈夫だと心のどこかで思っている。
それは、自然災害に対してだけではなく、他の様々な場面でもそうだ。
試験、仕事、人間関係その他……
どんな状況になっても絶対、なんとかなると、信じている。
「気楽でいいね」
よく言われた言葉。
羨ましいのか嫌味なのかわからないけど、私の都合の良いように解釈しておくことにする。
自分の生い立ちがどんなものだったかを思い返してみれば、あれ以上悪い状況になることなんて、そうそう無い。
だが、それを他人に話そうとは思わない。
すでに終わったことに対して、同情してほしいわけではない。まぁ、極力思い出したくないことではあるが。
他人の手を少し借りて、あの状況から抜け出せたのだ。
だから、これからも何があっても大丈夫。
「大丈夫。あなたは絶対大丈夫」
あの時私を助けてくれた人に恩返しをしたいから、今度は私がこの魔法のことばを誰かに唱える。
────嵐が来ようとも
「雨の中で踊る」
その地域でやっているお祭りに参加できるということは、その地域に受け入れられたように感じられて嬉しいものだ。
たとえ一年後にその地域には居なくても。
お祭りの起源は、どこの地域も似たようなものだが、お囃子などは地域差があるものなので、それを聞くだけでも楽しい。
私は祭りが好きだ。
だから、参加できなくても見に行く。
それがどんな種類のお祭りでも。
※
大通り脇の屋台は昼から営業が始まっており、大通りは交通規制され、子供たちのはしゃぐ声があちらこちらから聞こえてくる。
気温が体温よりも高くなっていく。
真っ青な空に、もくもくとした雲。見ただけで夏だとわかる空。
必ず途中で雨が降るというお祭り。
夕方、大通りを練り歩く踊り蓮がそれぞれのスタート地点に待機し始める頃には、西の空に灰色の雲が迫ってきていた。
────お祭り
「お告げ」
私の言動には、明確な理由はない。
なんとなくやりたくなったから──というのは、
理由として認められないらしい。
「いや、そんなわけないだろう」
「なんとなくなんて……志望動機どうするの」
それについては、インターネットで色々と検索して参考にするつもり。
「そんなのバレるだろ。自分の言葉で書かないと」
ランチを何にするかという小さなことから、進路の選択まで、すべて「なんとなく」という直感で過ごしていた。
なんとなく、直感で。
そういう風に人生の選択をしていくのは、そんなにいけないことなのだろうか。
何もしないより良いと思うのだけど。
いっそ「神様のお告げで」と言ってしまおうか。
────神様が舞い降りてきて、こう言った。