「足枷を外して」
夏が来て、秋が訪れ、冬になり、春になる頃。
私は、ここから出ていく。
それは、もうだいぶ前から決めていたこと。
だけど、どこへ行くのか、何をするのかは、決めていない。
来年の今頃、私はどこで何をしているのだろう。
やりたいことはあるけど、それを仕事にしようとは思えない。自信も度胸もない。
それでもわかったことがある。
このままここに居てはいけないということ。
足枷には鍵がかけられていないということ。
夏が来て、秋が訪れ、冬になり、春になって──来年の今頃、どこで何をしているのかわからないけど、私は私だけのために生きていきたい。
──── 一年後
「きっと同じだったから」
あの頃は、何も躊躇わずに言えた「だいすき」
それはきっと、同じ目線だったから。
手を繋ぎたいと思う前に手を繋いでいた。
それはきっと、同じくらいの大きさの手だったから。
中学生になってから、急に伸びた背。
低くなる声。大きく角ばっていった手。
一緒にいるだけで揶揄われた、あの頃。
今は、どうやったら自然なカタチで側にいられるかを、必死になって考えている。
────子供の頃は
「diary」
ふと見上げた空の色や、雲の形。
街路樹の葉の色の鮮やかさ。季節の花。
あたりまえにあるものだと思っていること──そのすべてが、ひとつひとつの奇跡だと気付いた。
何もないのではなくて、その奇跡に慣れてしまっている。
今日あった『嬉しかったこと』を三つだけ選んで日記に書いていく。
ひとつひとつの奇跡への感謝を忘れないように。
────日常
「ぶりっこの色」
「小学生の頃『ピンクはぶりっこの色』っていう風潮があって、嫌だったなぁ」
「あー、あった、うちの小学校もあったよ、それ」
「そうそう……で、水色選ぶんだよね」
「私は水色好きじゃなくて、黒選んでた」
「紫選んだら『いやらしい色だ。変態の色だよ』とか意味わからないこと言われた」
「あー、あったね。紫はヘンタイとか」
「なんだったんだろうね、あれ」
それぞれ別々の小学校どころか地域も違うのに、同じ年頃に同じようなことがあったということは『女の子らしくなりたくない』という気持ちが湧き起こる、そういうお年頃、というものだったのだろう。
「『ピンクってぶりっこの色だよ』ってしつこく言ってくる子がいて、ムカついたから『人の好きなものをヘンなふうに言う意地悪な子は嫌い』って言ったら、その子泣いちゃってさ……」
「うわぁ」
「その子、前から私の好きなものにケチつける子だったから、子供ながら鬱憤たまってたんだろうね……つい、口から出てた」
今、その子はどこで何をしているのか知らない。
でも、私に言われたことが泣くほどのことだったのなら、誰かの好きなものを貶したりケチつけたり……そういうことをもうしていないと思いたい。
────好きな色
「騎士と姫」
保育園の頃の君の夢は「おひめさま」だった。
俺に「おうじさまになって」と君が言ったから、身の程知らずな俺はすっかりその気になってしまったのだ。
だけど、成長するにつれて気がついた。
誰がなんと言おうと君はお姫様だけど、俺は王子様なんかになれない。そんな柄ではない。
だけど、せめて騎士になりたい。
常にお姫様をあらゆるものから守る、騎士。
だから、常に君の側に居させてほしい。
────あなたがいたから