「柵(しがらみ)」
運命なんて、自分ではわからない。
いつ命を落とすのかもわからない。
数分の差で、そのあとの人生が変わってしまうかもしれない。
それなのに、普段はそんなこと気にしないで生活してる。
「本当は、やりたいこといっぱいあって……たぶん、何年生きても足りない」
だけど、親に決められたレールの上を歩くことになりそう、と彼は言う。
人の寿命なんて誰にもわからない。親よりも長く生きられる保証なんてどこにもないのに、親のために生きるの?
しがらみも、立場も気にしないで、自分のためだけに生きてほしい。
そう、言えたら……
他人の私には、黙って見守ることしかできない。
────岐路
「君には知られたくないこと」
君と結ばれないのならば、生きる意味も価値もない。
物語に出てくる魔王のような力があったなら、世界ごと滅ぼしてしまうだろう。
こんなことを考えているだなんて、君が知ったらどう思うだろうか。
君が誰かに奪われてしまったら、辺り一面焼き尽くすだろう。
閉じ込めたはずの君が脱走したら、世界の果てまで追いかけるだろう。
そして、二度と逃げられないように、この手で君の命を奪ってしまうかもしれない。
君のいない世界などに意味も価値もないから、そのまま世界も滅ぼすだろう。
何の力も持たないことに安堵して、苛立つ。
────世界の終わりに君と
「ふたりの始まりの日」
アクシデントや良くないことがあると「最悪〜!」が口癖のあの子と、ペアを組むことになった。
「うわぁ……最悪」
彼女はそう言うと、腕を組んだ。
いや、それはこちらのセリフだよ……と思っていても私は言わない。
私のことをどう思っていても構わないけど、仕事に私情は持ち込まないでほしい。
個人的な好き嫌いで仕事に支障が出るようなことがありませんように、と願う。
相性最悪の私たちが、最強のペアになるまであと百五十日。
────最悪
「あなたは知らない」
あなたを手に入れるために、ちょっとだけズルをした。
あなたも周りの人たちも、気が付かない。
それをいいことに、私は自分の見た目も性格も偽った。
本当はこんなピュアな子ではない。
休みの日は寝巻きのままで、一日中寝ている。
何もしないことをしたい。
あなたは知らない。
本当の私も、私が考えていることも。
あなたに恋をしていないことも。
────誰にも言えない秘密
「鍵を返す前日」
角部屋。西向き。六畳一部屋とダイニングキッチン。
五年前、初めてこの部屋で過ごした夜。
実家とは違う街の音がうるさくて寝付けなかった。
理不尽なことを言われ、何も手につかなかった日。
初めてこの部屋に友人を招いた夜。
一歩踏み出そうと決めた日。
色々なことが起きたけど、その度に立ち上がることが出来た。
新しくはないし、夏は暑くて冬は寒い。
それでも、ここが一番落ち着く場所だった。
この鍵を返してしまったら、もう二度とこの部屋には入ることが出来ない。
そんなこと、当たり前のことなのに。
初めてひとりで暮らしたここは、心の実家だ。
帰ることが出来ない実家。
きっといつかこの近くを通る時、この部屋の窓を見つめるのだろう。
────狭い部屋