みんなは今頃、どこで輝いているのかしら。
みんなは今頃、どこで戦っているのかしら。
みんなは今頃、どこで過ごしているのかしら。
みんなは今頃、どんな空を見ているのかしら。
一番は、私がみんなの元に向かえればいいのだけど。でも、私はまだまだ研究したいことがあるから、この極夜の国から離れられそうにないのよね…。
でも、安心してね。みんなの写真はお部屋に飾ってる。学校から帰ったら、いつでもみんなと一緒。
今夜も、みんなで夢の中で幸せな時間を過ごしましょ。
住んでる場所は遠くても、私とみんなの心は一緒。傍目から見たら私は独りなのかもしれないけれど、私は確かにみんなと一緒にいる。
誰かを贔屓することも、誰かを冷遇することもない。私はみんなを、同じくらいに愛してる。
みんなみんな、大好きよ。ずっとずっと、愛してる。
…あぁ、でも。夢で会えるとはいえ、それって結局、時間が限られてるのよね。
私が人間である以上は、人間として生きている以上は、どうしても起床をしなきゃならないわ。
私が起床しなければ…私はみんなと、ずっと一緒にいれるわね。
いっそ、夢の世界を第二の現実として過ごせればいいのだけど。そうしたら、私達は永遠に一緒に過ごすことができるわ。
…そういえば。そういう願いを叶えてくださる神様の話、どっかで聞いたことあったわね。
半信半疑ではあるけれど…やってみて、価値はないかしら。
待っててね、みんな。準備を終わらせたら、すぐみんなのとこにいくからね。
(自由帳ノ世界―盲目な欲張り―)
他者に姿を視認されない。他者に声や音を聞かれない。殺意や気配を察知されない。抵抗の暇を与えない。確実に息の根を止める。関与を疑われる情報や痕跡を残さない。
最低でもこれらの事ができなければ、この世界では生きていけない。それらをし損ね、組織の存在が表社会に流れる懸念が生まれれば…警察が手を出すより早く、俺や他の幹部が、しくじった奴を処分する。
処分さえ終われば、後は警察がどう動こうが此方に影響はない。処分された奴の家宅捜索が行われたところで、組織との繋がりがある情報は見つからないからな。
「…はぁ。」
今夜、好奇心に殺される奴が一人。
痕跡の抹消と捏造が上手いもんで、使いやすい奴だったんだが…まぁ、仕方がない。
幹部への昇格に関する話と偽っておびき出し、胴を斬る。
もっとも、この初撃は避けられるか、受け流されることがほとんどだ。
人を殺める側でありながら、殺められる側となる可能性を思慮しない奴は、とっくに何かをしくじって処分済みだからな。
だが問題ない。本命の喉を斬る。声を失い、服と口が鮮血に汚れていくのに痛みがないという状態は、どんな気分になるんだろうな。
逃げる暇を与えず、腱を斬る。大抵の奴は、ここでやっと痛覚麻痺に気付き狼狽える。俺が胴体を斬ろうとした時点で、とっくに痛覚は麻痺してるんだが。
最後に、心臓を刺し、そのまま胴を斬り裂く。痛覚がないからこそ鮮明に感じるであろう「肉を断ち切られる感覚」ってのは、どんな味なんだろうな。
…いや、普通に血の味か。痛覚が正常に機能していれば、もしかしたら他の体液の味もしたかもしれないが。
お前の処分担当が、「痛覚を無効化できる」俺でよかったな。
(「BANDIT」―Ψ―)
世界が壊れて、時間が止まった。数年ほど経って世界が直り、再び時間が動き出した。
でも、世界が直っただなんて所詮は建前。再び動き出したその世界は、時間が止まる前の世界とは、似て非なるもの。
それは、偽物の世界。時間が止まる前の世界を複製して、それを基盤に新しく作りあげられた、偽物の惑星。
だってもし、壊れる前の世界と同じなら。
私とキミのどちらかが欠けたら、世界の均衡が崩れちゃうはずでしょ?
なのに、その世界はキミ一人だけで均衡を保ててる。これって、ニセモノの証拠でしょ?
なんで、私だけが消されて、キミだけが生き残ったの?
なんで、私だけが存在をなかったことにされて、キミの存在は今も語り継がれてるの?
なんで、キミだけのうのうと生き長らえてるの?
私にも世界を守る権利はあったはずなのに、キミだけその権利を独り占めしてさ。
今度は私がそれを独り占めしたって、なんの文句もないはずだよね?
先に独り占めしたのはキミなんだから。
当時の私とキミの力は均衡状態だったけど、今はどうかな?
消されなかったキミと、消されても蘇った私。
一つの能力しか使えないキミと、10個の能力を使える私。
負の感情しか作れない君と、正の感情を作れる私。
いったい、どっちが強いんだろうね?
大丈夫、世界がぶっ壊れたとしても、キミさえ死ねば元通りにするよ。私も元はあの世界を守ってたんだから、この位は朝飯前だしね。
キミみたいな「生半可な復元」じゃなく、「完全な復元」をしてみせる。
だからさ、とっとと死んで?
(『無題』―笑ウ黒幕―)
「やっほー、突然だけど、誕生日おめでとう!」
そんな言葉と共に私の家を訪ねてきた友人は、髪をバッサリといっていた。軽く天然パーマが入っていたはずの藍墨茶色の髪は、その面影を一切感じさせない。
それに対して私が何か言うより早く、彼女は「はいっ、誕プレ!」と紙袋を差し出してきた。促されるまま中身を取り出すと、それはVネックのセーターだった。
値札もタグも見当たらない、相済茶色のセーター。言われるがまま来てみれば、袖や裾は私の体にピッタリだった。
「もしかして…わざわざ、作ってくれたの…!?」
「イェスイェス♪だってこの先、どんどん寒くなってくるでしょ?りーちゃん指編み職人なのに、身体が冷えて指先悴んだら、編むの大変になっちゃうじゃん?お財布痛むよー?」
ニシシと笑いながら彼女は言う。けどそれは、彼女も同じはずなのに。
私達は、編み物で生きていくことを定められた存在。…なんていうと、まるで厨二チックになってしまうけれど。でも実際、編み物職人という職業は、他のどの職業よりもはるかに私達に向いている。
作品を売っただけ、生活が潤う。作品が売れなかっただけ、生活が困窮する。人間社会と違って、私達の世界は良くも悪くも実力主義だ。そんな中で商品を無料で配るのは…よっぽど稼いでいるならさておき、そうでなければ中々の打撃になる。
収入がないのはもちろん、材料をまるまる失うことになるのだから。
「あっ、もしかして、私の財布のこと気にしてる?大丈夫だってぇ、この前のオークションのおかげで財布は潤ってるし。それに、そもそも私はこれをりーちゃんに贈りたくった編んだからっ。髪だって、明後日くらいにはどーせ胸下くらいにまで伸びてるだろうしさっ」
顔に出てたみたいで、彼女はケラケラと笑った。
…ここまで言われたんだもの。プレゼントを純粋に喜ばないのも、無礼な話よね。
私はありがたく、彼女の作品を受け取った。
今でも、私はそのセーターを着ている。メンテナンスを行ううち、すっかり椿の香りが染み付いちゃったけど…別に問題は無い。
椿油の香りは、私も友人も大好きだから。
(「ファルシュ・コスモス」―髪編族―)
❤︎222
いつになったら、治るんだろう。
いつになったら、ありなは外に出られるんだろう。
ありながここに入って…8年、だっけ。小学校、丸々つぶれちゃった。
小学校って、どんなことをしたんだろう?授業って、どんなことをするんだろう?給食って、ありなの食べてるご飯と違ってたりする?
お薬飲めばありなはよくなるって、先生もママも言ってたから。お薬飲めばありなはお外にいけるって、先生もパパも言ってたから。お薬飲んだ後の気持ち悪いの我慢して、ありな頑張ってたのに。
お部屋のテレビの探偵さん。今日も探偵さんはカッコイイね。ありな、苦しくても、探偵さんに会うためにがんばってるよ。
……へぇ。倒れてた女の人は、お薬たくさん飲んじゃったんだ。
お薬たくさん飲んで、苦しくなかったのかな?気持ち悪くなかったのかな?…苦しそうな顔には、見えなかったけどなぁ…。
探偵さん、今日もカッコよかったなぁ。元気になったら、ありな 絶対探偵さんになろ!
お部屋がぽかぽかで、なんだか、眠くなっちゃった。
なんだか、とってもきもちいい。
探偵さん、またあおうね。おやすみなさい。
(『死期折々』番外―仔猫ノ生前記憶―)