「やっほー、突然だけど、誕生日おめでとう!」
そんな言葉と共に私の家を訪ねてきた友人は、髪をバッサリといっていた。軽く天然パーマが入っていたはずの藍墨茶色の髪は、その面影を一切感じさせない。
それに対して私が何か言うより早く、彼女は「はいっ、誕プレ!」と紙袋を差し出してきた。促されるまま中身を取り出すと、それはVネックのセーターだった。
値札もタグも見当たらない、相済茶色のセーター。言われるがまま来てみれば、袖や裾は私の体にピッタリだった。
「もしかして…わざわざ、作ってくれたの…!?」
「イェスイェス♪だってこの先、どんどん寒くなってくるでしょ?りーちゃん指編み職人なのに、身体が冷えて指先悴んだら、編むの大変になっちゃうじゃん?お財布痛むよー?」
ニシシと笑いながら彼女は言う。けどそれは、彼女も同じはずなのに。
私達は、編み物で生きていくことを定められた存在。…なんていうと、まるで厨二チックになってしまうけれど。でも実際、編み物職人という職業は、他のどの職業よりもはるかに私達に向いている。
作品を売っただけ、生活が潤う。作品が売れなかっただけ、生活が困窮する。人間社会と違って、私達の世界は良くも悪くも実力主義だ。そんな中で商品を無料で配るのは…よっぽど稼いでいるならさておき、そうでなければ中々の打撃になる。
収入がないのはもちろん、材料をまるまる失うことになるのだから。
「あっ、もしかして、私の財布のこと気にしてる?大丈夫だってぇ、この前のオークションのおかげで財布は潤ってるし。それに、そもそも私はこれをりーちゃんに贈りたくった編んだからっ。髪だって、明後日くらいにはどーせ胸下くらいにまで伸びてるだろうしさっ」
顔に出てたみたいで、彼女はケラケラと笑った。
…ここまで言われたんだもの。プレゼントを純粋に喜ばないのも、無礼な話よね。
私はありがたく、彼女の作品を受け取った。
今でも、私はそのセーターを着ている。メンテナンスを行ううち、すっかり椿の香りが染み付いちゃったけど…別に問題は無い。
椿油の香りは、私も友人も大好きだから。
(「ファルシュ・コスモス」―髪編族―)
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11/24/2024, 12:07:23 PM