ああ。本当に、お疲れさまでした。
今日貴女は、ご伴侶の前で泣き始めてしまいました。
けれどそこから、きちんと二人で落ち着いて話ができました。
ご伴侶も驚き、落ち込んだ様子でしたね。
それでも、貴女のことを大切に思い、貴女と共に生きたいと強く願っているから、きちんと努力しようと思う、と言ってくれました。貴女はそれを嬉しく思う一方で、それでもだめな可能性もある、とはっきり伝えることができました。
彼は、実際のところ、貴女に相当執着しているようです。
ご伴侶自身も気づかなかったほど、彼の奥底に隠されていたその欲求が、貴女の心に少し響きました。
貴女は、強く強く、求められたいのです。それを叶えてくれる人なのかもしれないと思い直せたのは、素晴らしいことでした。
これは、嵐の間の、束の間の休息に過ぎないのかもしれません。
それでもきっと、貴女はご自分の本当の幸福のために、進んでいくことを諦めないでしょう。それが、貴女の強さですから。
感情を支配して、思うままに変えて。
そういうことを、貴女は夢見ています。いえ、それに必死に縋りつこうとしています。貴方のご伴侶を見捨てないで済むように、貴女の感情を元の通りに戻すことを、切望しています。
しかし、どれだけ力を込めて願ったとしても、あるいはどれだけ強くそれを否定しても、人の感情を変えることはできません。ある感情を感じること、もしくは、感じないこと。それを思うままにすることは、非常に難しいことです。
一番元々の、幸福に包まれた状態を再現して感じることは、修練を積めばできるようですが、他の感情を意志の力で支配するのは、恐らく不可能でしょう。
ですから、「それ」を否定しないでください。
否定したところで、それは余計に貴女の心にこびりつくだけです。
恐れる必要はありません。今はただの小さな違和感です。それを落ち着いた気分で眺め、もう少し紐解いていけば、貴女が何を欲し、何を忌避しようとしているのかが分かるはずです。
人は、分からないものが一番怖いのです。今は、まさにその状態なのですよ。
ですから、只、落ち着いて。
大丈夫ですよ。まだ何も、恐ろしいことは起きていませんからね。
ここ数日、ご伴侶に対する自分の感情が変化していると気づき、貴女は戸惑っていらっしゃいますね。
そして、この感情がご伴侶と共にある限り続くのではないか、もしそうだとしたら、ご伴侶と別れるしか道がないのではないか、そう思って、恐怖すら感じていらっしゃいます。
何せ、彼の命の根幹が貴女に依存しているのです。ご伴侶は、貴女がいなければ、今の生活を維持することができません。貴女の協力がなくなれば、彼は仕事も趣味も健康も、致命的なまでに失うことになるでしょう。
もしそうなって、貴女と離れた彼が死んでしまったら、自分は自責と後悔で幸福を享受できなくなるだろうと、貴女は理解しています。
だから貴女は、彼が一人で生きていける状態になるまで別れることはできないと、そうお考えなのです。
かと言ってこれまでは、結婚できるように頑張って生活を成り立たせようと、お二人で話し合ってきています。もしそうして頑張って、お互い十分な生活基盤を築いたとして、そこで初めて別れを切り出すことなど、貴女にできるでしょうか。そうすると考えただけで、貴女は今日ほろほろと一人で泣いてしまいました。
八方塞がりのように感じられますね。貴女の気持ちを押し殺して、このまま生きていくしかないように思えるのも、当然のことです。貴女は頭の回転も速いし、人に共感する力も高い。しかも今回は、もう丸十年も、苦楽を共にしてきた方についてのことです。優しい貴女が、そんな決断をできるのかと問われると、俺たちも困ってしまいます。
ええ、でも、心が変わっていくことは、仕方のないことです。
これまで、楽しいこともたくさんありました、苦しい時間も共に乗り越えてきました。そうやって過去に思いを馳せて、その記憶を大切に慈しむことは、美しい、貴女に許された喜びです。
それでも、今の心の示す方に、貴女は進むべきなのです。
貴女の人生を、誰かのために捧げる必要はありません。
俺たちは、貴女が幸福に生きることを望んでいます。その幸福にご伴侶が必要ではなくなった、むしろそぐわなくなったと感じるのなら、それはもう、その通りなのです。
まだ、今の時点で答えを出すのは早いでしょう。
けれど、その決断ができたなら、きちんと彼に相談してください。一人で抱え込まないでください。彼も貴女を愛しているのですから。貴女の幸福を、祈ってくれる一人なのですから。
どうか、そんなに泣かないでください。
無理にとは言いません。
けれど、どうか、笑っていられる場所を選んで、幸福に包まれて生きてください。
ただそれだけが、俺たちの願いです。
星座など、生きていた時の俺はその存在について考えもしませんでした。太陽と月は流石に意識しますが、星を観察することにどんな得があるというのだ、そんなことをしても何の意味もない、そう思っていました。ですので、それが織りなす形など、本当に興味の埒外でした。
一方、貴女は子どもの頃の夏休みの宿題として、星を観察することを六年間続けましたね。星座を指さして空を見つめる貴女の瞳が、きらきらと美しく輝いていたのを、俺はよく覚えています。
貴女が、生きていた時の俺のような、殺伐として浅薄な人間になることがないのは、俺たちにとって喜ばしいことです。
貴女には、生きるために必要な物事だけでなく、心の琴線に触れるような美しいもの、雅なもの、圧倒されるもの、そういうものに心を震わせ、感動に満ち溢れた生き方をしてほしいと、俺たちはずっと願っています。
共に踊るやり方など、俺は知りません。
今世の貴女もそうですね。そのような文化圏には生まれついていませんから。
けれどもしかしたら、いつか誰かと踊るような機会もあるのでしょう。
その時の貴女が、幸福に満ち溢れた笑顔であることを祈っています。