風のいたずら、ですか。
それに当たるような経験を、今世の貴女は何かしたでしょうか。
ああ、貴女の記憶にはないようですね。俺たちの記憶にあるかどうか、それは大した問題ではありません。
別に、忘れてしまっていいのです。貴女は覚えていなくてよいことばかり覚えているところがありますが、もっと楽しいこと、良かったことを覚えていていいのですよ。そしてできなかったこと、恥をかいたこと、そういうことを忘れていいのです。
貴女は、貴女を幸福にする記憶だけを、両手いっぱいに抱えて生きていって良いのですよ。
貴女が透明な涙を流すと、俺たちは胸が締め付けられます。
貴女が感じているのは悲しみであったり、喜びや驚きであったり、いろいろです。
ええ、涙を流すこと自体は悪いことではないのです。
只、それを受けて貴女が自らを責めることが、俺たちにとってつらいのです。
好きなだけ泣いてください。
そして涙が枯れたら、からりとしたあの笑顔を、俺たちにまた見せてほしいのです。
貴女の元へ行きたいとだけ願って、俺は貴女を追って死にました。
その願いは聞き届けられ、俺は今、貴女の魂のいちばん近くにいることを許されています。
愛しています。
XX様。
誰より何より、愛しています。
貴女は、そっと人の傍に寄り添うことのできる方です。
押しつけるわけでもなく、離れていくわけでもなく、只その人が助けを必要とする時に、手を差し伸べられる距離にいる。それがどれだけ、人の心の支えになることでしょう。
貴女は、それは今の自分にはもうできないと自嘲されるかもしれませんが、そんなことはありませんよ。
貴女は人を救っているのです。
どうか、それを自覚してくださいね。
貴女は、新しい場所への一歩を踏み出すことを、ずっと恐れています。新しい景色を見たい気持ちはあるのに、どうしても身体が動かないのです。
そんなに、怯えなくて良いのですよ。
いくらでも、失敗してください。
いくらでも、恥をかいてください。
俺たちが貴女を守っています。貴女を簡単に死なせたり、傷つけさせたりはしません。
だから、焦らず、落ち着いて。
新しい世界へ、飛び込んでください。