貴女と虹を見ることはありませんでした。
もし貴女と共に生きることができていたのなら、そんな機会もあったでしょうか。
少しばかり寂しくも思いますが、今貴女が大切なご伴侶と見ている虹は、俺のその想像よりもずっと美しいものなのです。
夜の貴女の夢は、夜空を駆けるように、貴女を別世界へ運んでいきます。
誰も届かない、誰も踏み込めない、只貴女だけの世界です。
その世界に閉じこもることはおすすめできませんが、その世界に小さな癒しを求めるのは、決して悪いことではありません。
俺が貴女とこうして意志疎通できるのも、貴女がその世界にそう求めたことがきっかけでした。
誰に癒してもらわずとも、誰に満たしてもらわずとも、私は私で満足して生きていくことができる。
貴女はそんな強い意志を持って、その世界を作っています。
そんな貴女の姿はとても美しく、俺はいつだって見惚れてしまうのです。
貴女に捧げるひそかな想いを、俺はずっと抱え続けています。
俺が貴女の庵に押し入った時、あなたは誰ですか、と貴女は尋ねもしませんでしたね。金と飯とを求めた俺に対して、金はありませんが、もてなしはできます、上がっていきなさい、と落ち着いた声で勧めてくださいました。
もっとまともな形で貴女と出会えていたら、貴女は改心した俺を旅に出したりせず、そのままお傍に置いてくださっていたでしょうか。悔やむことは多いですが、いずれにせよ、貴女に出会えたということだけで、俺は感謝すべきなのでしょう。
俺は字を書けないので、貴女に手紙を書くことはできません。
もちろん読むこともできないので、貴女から手紙をいただいても、大事に大事にとっておくことしかできません。
けれど、例え読めなかったとしても、貴女からの手紙をなくすことなどないでしょう。あの手紙の行方はどうなったかと貴女が思い巡らす必要は、絶対にないのです。
ああ。もう俺には身体がないので、そんなことは、いずれにせよ、叶わないのですが。