貴女はいつかこの世を去り、多くの貴女を慕う人たちをこの世に残すでしょう。
彼らは貴女を想って遠くの空を見上げ、涙をこぼすかもしれません。
けれど貴女の魂は、そこに長くは留まりません。貴女の美しい魂は、生きとし生けるものを助けようとする高貴な意志は、その安寧のうちに眠ることを良しとはしないのです。
俺たちは貴女の魂の巡る様を、ずっと見てきました。
時に傷つき、時に裏切られ、それでも人を信じて愛そうとしてきた貴女の姿を、俺たちは見守ってきました。誠実で高潔で、そして何より温かい優しさを持った貴女が、幾度も命を得て人を救うのをつぶさに眺めました。
貴女は次もきっと、同じことを繰り返すのでしょう。
貴女がこの世に残した人たちも、いつか空に還ります。
その時貴女は、もはやそこには居ません。
そうして彼らは気づくのでしょう。
貴女という存在が、遠い空の向こうで眠っていたのではなく、既に彼らと同じ空の下で息づいていたのだということに。
俺たちがどれだけ貴女を愛しているかなど、言葉では語り尽くせません。
愛する。慕う。敬う。ひたすらに、想う。
どんな言葉を使っても、俺たちが貴女に抱いている感情は表現しきれないでしょう。
貴女に助けられた者。
貴女を思慕した者。
貴女と心を通わせた者。
貴女を守りたいと願った者。
貴女のことをこうして見守るようになるまで、俺たちの各々がかつて貴女との時間を過ごしました。
貴女は何も変わりません。俺たちのひとりひとりがいつか恋い慕い、あるいは寵愛し、また賛美した貴女は、今ここにいる貴女だけです。
この思いをどれだけ言葉にして伝えられたら、貴女は分かってくれるのでしょうか。
いのちが輝き出すこの季節が、俺たちは大好きです。
冬は凍えて眠っていたたくさんのいのちが芽吹き、のびやかに育ち、美しく咲き誇る。そんな姿を見ると、生きとし生けるものの強さと豊かさに息を呑むばかりです。
貴女はいつか、春が嫌いだとおっしゃいました。
貴女が学校が好きでなかったことと、大いに関係するのだと思います。新しいことが否応なしに始まってしまうこの季節が、ただただ苦しかったのでしょう。
貴女はいつでも完璧な人間であろうとしましたから、新しい環境の中でも再度「完璧」を作り直す必要がありました。重く、暗い気持ちで、その作業のために必死で作り笑いをしていた貴女を、俺たちも悲しい気持ちで見ていました。
貴女はいつから、その作業を止めたのでしょうか。
そのことは喜ばしいことだったのに、代わりに貴女は生きることの何もかもを諦めたように、部屋にひとり籠もってしまいました。まるで、完璧でないご自分を責めるかのように。
完璧な貴女でなど、いなくて良いのです。
貴女は貴女であることに価値があるのです。
俺たちは貴女に、このいのちが爛漫に花開く季節を、穏やかに愛でてほしいのです。
この世界に溢れる不完全ないのちが一斉に輝き出す時、それがどれだけ美しいのか。
それを貴女に、知ってほしいのです。
誰よりも貴女を愛しているのは、誰でしょう。
俺たちは、それが貴女自身であってほしいと思います。
いつも自分に厳しくて、人前では明るいのに、ひとりになると自らを責めて泣いていた貴女。
いつしかあまりの自分への厳しさ故に、何をすることもできないと諦めて、只部屋でうずくまっていた貴女。
そんな貴女が貴女自身を愛してくださったら、俺たちはどれだけ救われることでしょう。
もちろん俺たちも、貴女の生の終わる日まで、貴女に付き従います。それでも貴女は、いいえ、貴女こそ、誰よりもずっとずっと、貴女の味方であってほしいのです。
貴女の無償の愛が、人を癒す明るさが、温かい優しさが、どうか貴女自身にも向けられますように。
貴女は、今のご自分が嫌いですね。
俺たちの言葉が届いていないのが、よく分かります。
悲しいですが、仕方のないことです。人の言葉を受け入れるかどうかは、その人自身にしか決められないことですから。
それでも、俺たちはずっと言い続けます。いつまでも貴女に語りかけ続けます。
どうか、ご自分を責めたり、傷つけたりしないでください。俺たちが貴女を愛するように、貴女も貴女を愛してあげてください。
この十年を何の努力せずに過ごしてしまった、と貴女は泣いていましたね。それもそれで、良いのです。貴女がこの世に存在し続けてくれたこと、ただそれだけで俺たちの心は救われていました。
俺たちだけではない、貴女の父君も、母君も、あのご学友も、あの後輩の方々も、貴女が死なず、生を保ったことで救われました。貴女がもし命を絶っていたら、皆どれだけ苦しんだことでしょう。
貴女のこれまでの人生は、価値のあるものでした。
そしてそれは、これからもずっと変わりません。