お題『魔法』
幼い頃から「魔法が使えたりしないかなー」と憧れる日々だった。多分、ちいさい時に見た魔法少女とか魔女のアニメが原因だと思う。
かわいいアイテム持って、かわいい衣装を身に着けて戦ったり人助けをする彼女たちに私は憧れた。
もうすこし成長して本が読めるようになると、今度はイギリスにある魔法学校への入学をのぞむようになった。闇の魔術に対する防衛術という響きに大いに憧れた。
だけど今、魔法少女に選ばれることも、魔法学校からのお手紙が届くことなく大人になってだいぶ経つ。
そこでふと、思う。「魔法を使う必要がないほど、世界は平和なんだ」と。そう思えばすこしは気が楽になるだろう、というなかなかに痛々しい思考を吐き出してみることにする。
お題『君と見た虹』
小学生の頃、友達と屋上で喋りながら虹を見ていた。
「ねぇ」
「ん?」
「虹って渡れるのかなぁ?」
友達のその発言に私は笑いながら
「いやいや、渡れるわけないでしょ」
と答えた。友達は顔をすこし伏せ
「そうだよね」
と言った。
「前に花に水あげてた時、虹が見えたから触ったんだ。そしたらすり抜けちゃったの」
「それはそうだよ」
「でもさ、虹を渡ることが出来たらすごく楽しそうじゃない?」
友達の目はきらきら輝いていた。
夢みたいなことを大真面目に語る彼女は、ある日突然行方不明になった。不思議なことにいろんな人に彼女のことを聞いても「そんな人いたっけ?」と返されるだけだった。
その時は途方に暮れ、あえて中学受験をして、受かった先の学校で中高と部活でわざと忙しくして彼女のことを忘れることにした。
ある部活の帰り。ふと、光る通路を見つけた。私は思わず気になって駆け寄ると、そこにあったのは虹でできた道だった。
そこで私は彼女のことを思い出す。もしかしたら、これを渡れば彼女に会えるかもしれない。
ためしに一歩踏み出してみると虹の上に足を乗せることが出来た。
虹の上を歩くと楽しそう? いいや、今はそんな楽しい気分じゃないかもしれない。彼女は今、どうしてるだろう? 会って「バカにしてごめん」とか、貴方がいなくなった後のいろんな話しがしたい。
その一心で虹の上に乗り、その先へ向かって走り出した。
お題『夜空を駆ける』
むしょうに外へ出たくなった。時計を見た時間は深夜0時。
親はとっくに寝静まっているので、こっそり家を出ると自転車に乗り、ひたすら走る。着いた場所は、灯台が見え、海が見渡せるところだ。
俺はそこに自転車をとめて光る灯台と、きらめく星々と、暗い海を見つめていた。空と海の明暗がはっきり分かれる場所。一人になりたい時、よくここに来るようになった。
親は出来のいい兄にかまけてばかりで俺を見てはくれない。いっそ海に飛び込んでしまおうか。そうすればようやく俺に目を向けてくれるから。
でも、死にたくないな。
そう思って、空を見上げる。きらめく星々はまるでこの世のものとは思えないくらい綺麗で、俺だけ放置されているくせ親の思うとおりにいかないと叱られる現実から目をそらすことができる。
あぁ、だから人は星に願うのだなと思う。
俺は今日も願った。
「はやく、一人で生きられるようになりますように」
お題『ひそかな想い』
真面目な優等生。それが私の周囲からの評価らしい。
たしかに勉強頑張ってるから成績はいいし、クラス委員だってやっている。校則だってきちんと守る。
だけど、本当はSNSをよく見ていてインフルエンサーのようにかわいいかっこうをして映える写真を撮ってバズりたいと思っているし、好きな歌い手がいてそのライブに行ったりしては推しの良さを浴び続けていつか彼にお近づきになりたいなぁと思っている。
そんな私の煩悩にまみれた本性を皆に知られてしまわないように、優等生を演じ続けるのである。
お題『あなたは誰』
気がつくと知らない場所のベッドの上にいた。どこかの山小屋だろうか。周囲は丸太を積み上げた壁になっている。左を向くと扉がある。
どのようにしてここに来たんだろう。
思い出してみようとするものの、なにも思い当たるものがない。それどころか、自分の名前すら思い出すことができない。
その瞬間、急に恐怖がわきあがってくる。
私は誰? 名前も思い出せない。これまでどのようにして生きてきたかも思い出せない。
内心パニック状態になっていると、部屋の扉が開く。
出てきたのは、男性だった。
「そんなに身構えなくていいよ」
彼は湯気がたつマグカップを持っていて、それを私が横になってるベッド横の棚の上に置いた。
「あなたは誰なんですか?」
聞くと、彼はすこしだけ悲しそうな顔をした。申し訳なく思う。
「すみません。私、自分の名前も分からなくて」
「今はいいよ」
「え?」
「ゆっくり思い出してくれるまで待ってるから」
そう言うと彼は外へ出ていく。
「ご飯できたら呼ぶから……それまでゆっくりしてってね」
最後に「今日は君の好きなオムライスだよ」、そう言い残して扉をパタンと閉める。どうやら私の好物らしい。
だけど、本当に思い出せないんだ。でも、どうしてか心が浮足立つような気持ちになる。彼が言うことはどうやら本当らしい。
私はベッドの上にしばらく横たわりながら、ご飯の時間まで言われた通りゆっくり過ごすことにした。