白糸馨月

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お題『あなたは誰』

 気がつくと知らない場所のベッドの上にいた。どこかの山小屋だろうか。周囲は丸太を積み上げた壁になっている。左を向くと扉がある。
 どのようにしてここに来たんだろう。
 思い出してみようとするものの、なにも思い当たるものがない。それどころか、自分の名前すら思い出すことができない。
 その瞬間、急に恐怖がわきあがってくる。
 私は誰? 名前も思い出せない。これまでどのようにして生きてきたかも思い出せない。
 内心パニック状態になっていると、部屋の扉が開く。
 出てきたのは、男性だった。
「そんなに身構えなくていいよ」
 彼は湯気がたつマグカップを持っていて、それを私が横になってるベッド横の棚の上に置いた。
「あなたは誰なんですか?」
 聞くと、彼はすこしだけ悲しそうな顔をした。申し訳なく思う。
「すみません。私、自分の名前も分からなくて」
「今はいいよ」
「え?」
「ゆっくり思い出してくれるまで待ってるから」
 そう言うと彼は外へ出ていく。
「ご飯できたら呼ぶから……それまでゆっくりしてってね」
 最後に「今日は君の好きなオムライスだよ」、そう言い残して扉をパタンと閉める。どうやら私の好物らしい。
 だけど、本当に思い出せないんだ。でも、どうしてか心が浮足立つような気持ちになる。彼が言うことはどうやら本当らしい。
 私はベッドの上にしばらく横たわりながら、ご飯の時間まで言われた通りゆっくり過ごすことにした。

2/19/2025, 11:29:40 PM