お題『星に願って』
小学生くらいの頃、おまじないにはまっていたことがある。
たとえば当時家で購読していた雑誌についてた女神の絵が描いてある小さなシールを鏡に貼ると綺麗になるとか、好きな人の似顔絵と自分の名前と好きな人の名前を書いた紙を常に持ち歩くと願いが叶うとか。
そういえば星に願う系もあったなぁと思い出す。
たしかなんだっけと今ネットで調べたら、最初に願い事を書いた紙に塩をふりかけて燃やして、その灰をトイレに流すとか出てきた。知らないおまじないだ。
だけど、思い返す。そういえばおまじないをして願い通りになったことってあったっけ、と。
いや、ないな。と思って、おまじないはこれからも興味本位だけで調べることにした。
お題『君の背中』
足の速さじゃ勝てないから、せめて勉強だけは彼に勝ちたいと思った。
僕には憧れているクラスメイトがいた。
成績優秀で、足も速くて、明るくて、みんなの人気者だった。
僕は、せめてそんな彼といて遜色ないようにしたかった。だけど、足だけはどうにも速くならず、明るい性格にもなれそうにない。せめて勉強だけは頑張り続けた。
そしたら中学になって、追っていたはずの彼の背中をいつの間にか追い越してしまった。運動会では彼はまだ活躍できていたからいいけど、彼は勉強に関してはそこまで努力してなかった。
「俺、近くの高校通うわ」
と言った時、僕のなかでなにかがさめていく感覚がした記憶がある。
それから高校からはなれて、大学で東京に出て、正月に地元へ帰った時、久々に会った彼はあの頃の面影がなかった。
地元で通ってたファミレスで
「あー、小学校の頃にもどりてー!」
と小学生時代と同じように手足をバタつかせているのを見て、僕は過去の憧れに心のなかで終止符を打った。
お題『遠く……』
テレビなんて久しぶりに見る。たまたま音楽番組をつけていた母親が「●●ちゃん、今日も頑張ってるわねぇ」なんて感慨に耽っていた。●●は、俺の幼なじみだ。
あいつは、地元の中で一番可愛かった。絶対に本人に言うことはなかったし、ましてや噂話するにしても俺は絶対に乗らなかった。だってそうしたらあいつの中で俺の存在感が埋没してしまう気がして、ひょっとしたら俺があいつを特別に思うのと同じように俺を見てほしかったのかもしれない。
それが事務所にスカウトされて、今では誰もが名前を知るアイドルグループのメインメンバーに選ばれたことで俺はその他大勢になってしまった。
幼稚園の頃から一緒にいたのに。家だって隣だったのに。小さい頃、結婚の約束をしたのに。もう近くにいることは叶わないのだ。
テレビで歌って踊って活躍する幼馴染の姿を一瞬視界にいれ、俺はリビングから自分の部屋へと戻っていった。
自分の気持ちを素直に伝えられなかった後悔がまた胸のなかを埋め尽くして痛かった。
お題『誰も知らない秘密』
「もう転校する必要がない」
と父さんに言われて今の学校に転校した。どういうことなんだろう、とその時は思った。
だが、教室に入って理解した。
皆、堂々としている。
なぜそう言ったのかというと、皆、各々の得物を取り出して手入れしたり、本来なら話すことすらタブーである仕事の話を堂々としたりしている。
だが、教師が入ってくると皆それをしまい、しん、と静まり返った。
「本日からこのクラスに新しい仲間が増えた。ほら、自己紹介しろ」
うながされて、俺は「佐藤一郎です」といつものように偽名を名乗った。
すると、すかさず後ろの席からナイフが勢いよく飛んできた。俺が体を傾けたので黒板にカンッと当たって落ちる。
俺はナイフを飛ばした相手を把握するとその場から駆け出し、肩に手をかけると椅子ごとそいつを組み敷いた。
俺の下にいるやつがニィ、と歯を見せて笑う。
「お前、スパイか暗殺者のどっちかだろ」
「なぜそう思う」
「そんな名前、本名なわけねぇだろ」
それには答えず、俺は視線だけを返した。
とたんに背後で「お、乱闘か、乱闘かぁ!」と背後で鳴る銃声、「ちょっとやめなよぉ!」という声と同時に鈴みたいな音がなぜか鳴る、それから机を大きく叩く音。
「お前らぁ! 静かにしろ! 内申点下げられたいのか!」
その声に皆、静まり返る。
どうやら、ここは普通の学校ではないらしい。父さんが言っていた意味がわかった。ここは皆、俺と同じように「正体を隠す必要がある」者たちばかりだ。
(なるほど、楽しくなりそうだな)
俺はその場からはなれ、教壇の前に立ち自分の本名を名乗った。
お題『静かな夜明け』
眠れない夜は、じっと目をつむったまま朝を待つ。
しばらく目をつむって、睡魔がいっこうにくる気配がなかったら、諦めて目を開けて部屋の電気をつける。
それから本を読み始めるが、今読んでる小説が面白くていっこうに眠気がこない。
これではいけない、といったんかたわらに本を置く。
スマホはぜったいに触らないと決め、部屋のあかりを消してまた目をつむり、睡魔がくるのを待つ。
眠れない原因は分かってる。普段しない人付き合いをして、良くも悪くも脳が刺激されてしまったせいだ。
静かな部屋だというのに私の脳内はとてもうるさい。
人と話して楽しかった反面、ああすれば良かった、こうすれば良かったと内省する。今のこの眠れない状況に自己嫌悪すら抱きたくなる。
眠くなれ、眠くなれ。
そう頭で念じながら気がつくと、窓の外が明るくなり始めていた。