白糸馨月

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お題『君の背中』

 足の速さじゃ勝てないから、せめて勉強だけは彼に勝ちたいと思った。
 僕には憧れているクラスメイトがいた。
 成績優秀で、足も速くて、明るくて、みんなの人気者だった。
 僕は、せめてそんな彼といて遜色ないようにしたかった。だけど、足だけはどうにも速くならず、明るい性格にもなれそうにない。せめて勉強だけは頑張り続けた。
 そしたら中学になって、追っていたはずの彼の背中をいつの間にか追い越してしまった。運動会では彼はまだ活躍できていたからいいけど、彼は勉強に関してはそこまで努力してなかった。
「俺、近くの高校通うわ」
 と言った時、僕のなかでなにかがさめていく感覚がした記憶がある。
 それから高校からはなれて、大学で東京に出て、正月に地元へ帰った時、久々に会った彼はあの頃の面影がなかった。
 地元で通ってたファミレスで
「あー、小学校の頃にもどりてー!」
 と小学生時代と同じように手足をバタつかせているのを見て、僕は過去の憧れに心のなかで終止符を打った。

2/10/2025, 5:24:40 AM