お題『誰も知らない秘密』
「もう転校する必要がない」
と父さんに言われて今の学校に転校した。どういうことなんだろう、とその時は思った。
だが、教室に入って理解した。
皆、堂々としている。
なぜそう言ったのかというと、皆、各々の得物を取り出して手入れしたり、本来なら話すことすらタブーである仕事の話を堂々としたりしている。
だが、教師が入ってくると皆それをしまい、しん、と静まり返った。
「本日からこのクラスに新しい仲間が増えた。ほら、自己紹介しろ」
うながされて、俺は「佐藤一郎です」といつものように偽名を名乗った。
すると、すかさず後ろの席からナイフが勢いよく飛んできた。俺が体を傾けたので黒板にカンッと当たって落ちる。
俺はナイフを飛ばした相手を把握するとその場から駆け出し、肩に手をかけると椅子ごとそいつを組み敷いた。
俺の下にいるやつがニィ、と歯を見せて笑う。
「お前、スパイか暗殺者のどっちかだろ」
「なぜそう思う」
「そんな名前、本名なわけねぇだろ」
それには答えず、俺は視線だけを返した。
とたんに背後で「お、乱闘か、乱闘かぁ!」と背後で鳴る銃声、「ちょっとやめなよぉ!」という声と同時に鈴みたいな音がなぜか鳴る、それから机を大きく叩く音。
「お前らぁ! 静かにしろ! 内申点下げられたいのか!」
その声に皆、静まり返る。
どうやら、ここは普通の学校ではないらしい。父さんが言っていた意味がわかった。ここは皆、俺と同じように「正体を隠す必要がある」者たちばかりだ。
(なるほど、楽しくなりそうだな)
俺はその場からはなれ、教壇の前に立ち自分の本名を名乗った。
2/8/2025, 2:04:51 AM