お題『隠された手紙』
幼馴染が事故で亡くなった。ずっととなりの家に住んでた。
大学に入って一人暮らしを始めてからずっと会っていなかったけど、彼は家族のように身近な存在だった。心に急に大きな穴があいたみたいだ。
彼の葬式に参列すべく、地元に帰ったら隣の家のおばさんから手紙の束を渡された。
全部、彼から私宛の手紙だった。おばさんは「読んであげて」と言ったきり、家に戻ってしまった。
私は自分の部屋に急いで戻り、便箋を開く。中身はおせじにもきれいとは言えないルーズリーフの数々だった。
内容を読んで思考が一瞬停止した。彼から私に対する思いが書かれていたからだ。それをつづっては、途中で消し、また新しいノートを用意して書く。
ただ一言、「好き」と伝えてくれればそれでよかったのに、そういえば思い出した。
『俺、お前とちがって頭悪いからよぉ』
口癖のようにそんなことを言ってたっけ。だから、一生懸命背伸びしたような文章がいっぱい綴られていた。
もう後悔しても遅い。彼は二度と帰らない。
彼の気持ちに気づいてあげられていたら、もっと違ったのかもしれない。彼が死ぬこともなかったかもしれない。家族みたいに大事だったのにな。
それでも泣くことができず、ようやく泣いたのは火葬まで済ませた葬式の後、東京へ帰る新幹線の中だった。
お題『バイバイ』
今度こそ、あの子を死なせないと決意した。だから、生まれ変わったんだ。
夕方になり、隣の村に住んでいる友達が
「帰らなきゃ」
と立ち上がる。僕はその手をつかんだ。彼女が不思議そうな顔をして僕を見る。
「ねぇ、村まで送らせてよ」
そう言うと、彼女が恥ずかしそうに笑った。
僕はこの後の顛末を知ってる。
この場で「バイバイ」と別れた後、彼女とは何年も会えなくなる。次に彼女の姿を見たのは十年後、ボロ布だけをまとったやつれた姿で人買いに売られているところだった。
隣の村は貧しく、その周辺では子供を狙った人攫いが横行していた。
僕はずっと後悔を胸に生きてきた。
だから別れの挨拶をする前にせめて彼女を無事に送り届けようと決めた。それは、彼女がある程度成長するまで続けられた。
お題『旅の途中』
旅におけるハプニングはいっそ楽しむものだと思う。さすがに道中話しかけてきた相手がスリのグループとかでないかぎりは。
ちなみに最近、私が旅をしていて起きたハプニングは、私の無知から起こるものだった。
推しのライブへ行くために東京駅から新大阪駅まで行くことがあった。東京駅へ行くまで、乗る時間を遅らせたりして、正直会場に着いたころにはグッズが売り切れているのではないかと不安でたまらなかった。
正直、あせっていたんだと思う。私は東京駅へ着き、駅弁を買った後、すぐに出発する新大阪行きの新幹線があったからタイミングよく乗った。
そう、タイミングよく乗ったと思ったのだ。
その乗った新幹線が『こだま』なのは分かっていたが、それにしてもやけに停車駅が多すぎる。私はスマホで乗り換え案内を開き、それでも飽き足らず『こだま』の発車時間と到着時間を調べて愕然とした。これでは、物販はおろか、会場に着くのが開演時間ギリギリになってしまう、と。
幸い、新幹線は新横浜に着く前だった。だから、そこで降りてたまたま次に来たのぞみに乗り換えたら着くのが早かった。乗り換え案内を調べて一安心する。
しかし、とんだハプニングだと思う。だが、旅の途中で笑い話が一つ増えたのはいい思い出だ。
お題『まだ知らない君』
「あの子とつるむの、やめたほうがいいよ」
一人になった時にクラスメイトふたりから呼び止められて、人けがないところに連れて行かれた時に言われた。
『あの子』は、私にとってただひとりの友達だ。
孤立していた私に声をかけてくれ、休み時間になると一緒に会話してくれたり、一緒にお弁当を食べてくれたり、下校も途中まで一緒だ。
そこまでしてくれるあの子に対してなんてひどいことを言うんだろう、と思う。
だけど、彼女たちは本当に心配そうな顔をしている。
「えっと……なんでかな?」
と聞くと、とたんに目の前のクラスメイトたちの顔が急に青ざめていく。と、同時に
「あれぇ、こんなところにいたんだぁ?」
というすこし甘えたような喋り方をする私の友達の声が聞こえてきた。クラスメイトたちはいつの間にか走ってその場から逃げ出していた。
不思議に思っていると、友達が私の肩に腕を回してくる。その腕がいつもより重たいのは気の所為だろうか。
「さ、教室もどろ?」
という彼女の声に私は思い切り首を縦に振った。
そうだよね。こんな私と一緒にいてくれるんだから、彼女が悪い人なわけないよね。
そんなことを私は暗くて狭い部屋の中で思い出す。
あの頃は、彼女のことをなにも知らなかった。友だちがいない私に話しかけてくれるなんて、まるで女神みたいな存在だと思っていたからだ。
でも、現実はそうじゃなかった。彼女のおかげで幸せな記憶が増えた反面、今も苦しむくらいのトラウマも植え付けられた。私は彼女のことを『知らなすぎた』のだ。
彼女が今どこにいるか知らない。ひどい目に遭わされたくせにまた会って話したいと思う。
あれから五年ほどつるんだけど、未だに私は彼女のことをなにも知らないから。
お題『日陰』
部屋を暗くしていると、べつに悪いことをしているわけでもないのに自分がまるで世間から隠れながら生きている気分になる。
本当は太陽の光が眩しすぎて目が眩むからカーテンを閉め、電気も消しているのだけど、それだけで自分が内にこもっている気分になれるから不思議だ。
これが仕事中だから正直気が滅入ってしまう時がある。だけど、電気つけたらつけたで眩しくて目が痛くなることがある。難しい。
さて、今日は面白かったホラーノベルゲームをもう一周してみるかな。これなら暗い部屋でもなんだか楽しい気分になれそうではあるから。