白糸馨月

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お題『バイバイ』

 今度こそ、あの子を死なせないと決意した。だから、生まれ変わったんだ。

 夕方になり、隣の村に住んでいる友達が
「帰らなきゃ」
 と立ち上がる。僕はその手をつかんだ。彼女が不思議そうな顔をして僕を見る。
「ねぇ、村まで送らせてよ」
 そう言うと、彼女が恥ずかしそうに笑った。

 僕はこの後の顛末を知ってる。
 この場で「バイバイ」と別れた後、彼女とは何年も会えなくなる。次に彼女の姿を見たのは十年後、ボロ布だけをまとったやつれた姿で人買いに売られているところだった。
 隣の村は貧しく、その周辺では子供を狙った人攫いが横行していた。
 僕はずっと後悔を胸に生きてきた。

 だから別れの挨拶をする前にせめて彼女を無事に送り届けようと決めた。それは、彼女がある程度成長するまで続けられた。

2/2/2025, 3:19:09 AM