白糸馨月

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お題『隠された手紙』

 幼馴染が事故で亡くなった。ずっととなりの家に住んでた。
 大学に入って一人暮らしを始めてからずっと会っていなかったけど、彼は家族のように身近な存在だった。心に急に大きな穴があいたみたいだ。
 彼の葬式に参列すべく、地元に帰ったら隣の家のおばさんから手紙の束を渡された。
 全部、彼から私宛の手紙だった。おばさんは「読んであげて」と言ったきり、家に戻ってしまった。
 私は自分の部屋に急いで戻り、便箋を開く。中身はおせじにもきれいとは言えないルーズリーフの数々だった。
 内容を読んで思考が一瞬停止した。彼から私に対する思いが書かれていたからだ。それをつづっては、途中で消し、また新しいノートを用意して書く。
 ただ一言、「好き」と伝えてくれればそれでよかったのに、そういえば思い出した。
『俺、お前とちがって頭悪いからよぉ』
 口癖のようにそんなことを言ってたっけ。だから、一生懸命背伸びしたような文章がいっぱい綴られていた。
 もう後悔しても遅い。彼は二度と帰らない。
 彼の気持ちに気づいてあげられていたら、もっと違ったのかもしれない。彼が死ぬこともなかったかもしれない。家族みたいに大事だったのにな。
 それでも泣くことができず、ようやく泣いたのは火葬まで済ませた葬式の後、東京へ帰る新幹線の中だった。

2/3/2025, 3:51:00 AM