お題『イヴの夜』
「ママァ、あの人たちなぁにぃ?」
「見ちゃだめよ」
そう言って俺たちの前を親子が足早に通っていく。もしかしたらいつかお前の息子が俺たちみたいになるかもしれない、なんて一ミリも考えていないんだろうなと思う。
俺たちの住む村では、十八以上になって誰も恋人や伴侶が見つかっていない人間はクリスマスツリーの見える通りの端で晒し者にされる習わしがある。
首からプラカードを下げて「恋人募集中」やら「結婚相手募集中」と大きな字で書き、その下に自分のアピールポイントを細かく書く。さすがにクリスマスツリーやイルミネーションは地元ながらとてもきれいなので世の家族、カップルどもが見とれてくれているし、人混みのせいかそこまで目立っているわけではない。
だけど、たまたま俺たちと目が合った者は、ある者は同情的な目で見、ある者はさっきの親子みたいに見てはいけないものだとして扱い、ある者はスマホで撮影してくる。
大人になっても恋人や独身というだけでこんなにミジメなことってあるだろうか。
俺たちの中には、手を差し伸べて貰える人間がいる。年収が高かったり、若い女の子だったり、比較的容姿が端麗な者だったり……ため息をつきたくなる。
ちなみに俺は今年も残っている。二十七歳、年収最近やっと四百万いったばかりの社畜、中肉中背……たぶんブサイクではない。普通すぎて印象に残らないのだろう、きっと。実家暮らしが楽すぎて十八になった瞬間に村を出る友人をバカにしていたあの頃の自分を叱りつけてやりたい。
あ、そこのかわいい貴方。目が合いましたね。お願いです、俺を貰ってくれませんか? 頼みます、頼みます。あぁっ、ちょっと! 逃げないでくださいよ、ちょっと!
お題『プレゼント』
友達付き合いをないがしろにしてきた。ついでに恋人なんていたことない。
家族の誕生日は忘れたことはないが、今も付き合いがある親友の誕生日は正直覚えていない。
私がこんななので、実家を出て一人暮らしして以降、誕生日を祝われたことがないし、私も誕生日というものにとくになんの感情を抱かなくなってしまった。
そんな時、たまたまマッチングアプリで二回目に会う男性からちいさなピンクのバラ一輪の花束っぽいのを渡された。とつぜんのことだった。
「これ、なんですか?」
と聞いたら、彼はおどろいたような顔をして
「今日って誕生日じゃなかったでしたっけ?」
と言われた。たしかに今日はたまたま私の誕生日だ。そういえば先週会った時、そんな話をした気がする。
「たしかに今日ですけど、まさかもらえると思ってなくて」
「あ、あのいやでしたか?」
男はすこしだけ悲しそうな顔をした。知り合ったばかりの人からプレゼントされて困惑しているのは事実だが、その一方で悪い気がしていないのも事実。
「いいえ、ありがとうございます。普段あまり人から祝われることがないので嬉しいです」
「ほんとですか! じゃ、これからなんかの記念日にたくさん祝いましょうね!」
バラの一輪を受け取ると、彼が嬉しそうに顔をパァっと明るくさせる。
正直まだこの目の前の男と付き合うかどうかは分からないが、人から祝われるのは嬉しいものなんだな、と何年か前に家族からやってもらった誕生日パーティーで受けた温かい感情を思い出していた。
お題『ゆずの香り』
たまに飲むと美味しいものがある。
ジャムみたいなびんにゆずを果実の蜜に漬けたものが入っていて、それをスプーンでひとさじコップに入れてそこにお湯を注ぐ。
それを飲むと甘くて温かい飲み物が完成する。湯気からほんのりゆずのいい香りが漂ってきてそれがまたいいんだ。
お題『大空』
戦争が終わった。だが、俺はかけがえのない親友を亡くした。俺たちの国は勝ち、仲間たちが祝杯をあげているなか、俺はそんな気にはなれず、ひとり崖の方へ行って膝を抱えていた。
俺もあいつもただの下っ端の兵隊で、将軍に攻撃が飛んでこようものなら、それの盾になるべき存在だ。要するに使い捨て。代わりはいくらでもいる。
それなのに俺の親友の代わりなんていないのだ。
涙も出ず、ただぼうぜんと空をみあげていると上から
「どうした?」
って聞き慣れた声が突然聞こえてきた。あたりを見回しても誰もいない。あいつはさっき死んだはずだ。それなのに、どうしてか姿を探してしまう。
「残念ながら地上にはいないぜ。空の方見てみな」
そう言われて空を見上げる。そこには親友が笑いながら俺を見下ろしてるではないか?
「えぇっ!?」
思わず声を上げると、親友が笑う。
「神様に頼んでお前に最後の別れを告げに来たんだ」
そう明るく答える親友に俺は首をふる。
「いやだ、お前がいない世界なんて俺は」
「ハハッ、まるで伴侶みてぇだな。参っちゃうぜ」
「親友だってそう思うだろ。俺には家族なんていなかったから」
「そうか」
すると、親友は真顔になって俺に言った。
「俺のいない世界で生きていたくないと言うけどな、俺はお前が後を追おうものならすぐに追い返すぜ」
「でも」
「そんなことしやがったら俺とお前との友情はこれまでだ」
その言葉に息を呑んだ。親友が言葉を続ける。
「俺がいない世界でもお前は生きて天寿を全うしろ。約束してくれ」
彼の言葉から有無を言わせない雰囲気を感じていた。内心納得していない。本当は後を追いたいし、だけど、それで友情が壊れるのは嫌だ。だから
「……わかった」
そう答えるので精一杯だった。親友は笑みを浮かべた後、「じゃあ、生まれ変わることがあったらまた会おうぜ!」と言って親指を立てながら消えていった。
ただ、青い空が広がるばかりになった。
「さらっと来て、さらっと別れるなよ」
ようやく俺は膝を抱えて、しばらく悲しみにひたっていた。
お題『寂しさ』(昨日スキップしたので)
「一人で寂しそう」
「あなたのことを大切に思ってくれる人がきっと現れる」
っていう言葉を聞くたびに、「余計なお世話じゃい」と思う昨今。
人生何年か生きてて思う。私は案外一人で生きていけるって。
それは一時期、一人で暮らしていた時に実感したのだ。たしかに人といる人生は楽しいけど、一人の人生だって楽しい。誰にも気を遣わず好きなものを食べ、好きな番組を見て、好きな音楽を聴いて、時々一人で楽しむジムとかゲームとかそういった趣味をする。
一人でも自分の心を満たすことは十分できるんだ。心からそう思ってる。
だけど、こう言ってることがもしかして「強がり」だと思われてる気がする。
お題『ベルの音』
「うちにはサンタさんは来ないよ」
小さい頃、毎年のようにお母さんが言っていた。そうだ、僕の家はびんぼうで、みんな「サンタさんから何もらった?」なんて話をされるたびにさみしい思いをしていたけど、何年か経ったら『サンタ』なんて存在はただの空想だってことに気がつく。
それに気がついた小学三年生の僕は、まだサンタの話をしているクラスメイトを見て内心優越感に浸っていた。
だけど、ふしぎなことが起きた。
それは、僕が小学五年生になった頃だろうか。
クリスマスイブの夜中、急に目が覚めて眠れなくなってしまった。その時、窓の外からなんだかシャンシャンシャンシャンという音が聞こえてきた。
僕は気になって窓を開ける。外は雪が降っていたけど、構わずベランダに出た。だって、外には赤い帽子をかぶった老人がトナカイにそりをひかせて空中を走っているのが見えたから。それが僕の方に向かってくる。
しょうじき、目を疑った。
だけど、僕の家の目の前でサンタさんがそりをとめ、そこからベランダに飛び乗ってくる。
「な、なに?」
僕が警戒していると、サンタさんは四角い箱を渡してきた。光沢がある包み紙にリボンがかけられている。初めて見るものだった。
「これを僕に?」
と言うと、サンタさんは頷く。プレゼントを受け取った僕は「ありがとう!」とサンタさんにお礼を言うと、サンタさんはそそくさとそりに飛び乗った。
トナカイが頭を揺らしてベルを鳴らす。
それからまたシャンシャン鳴らしながらサンタさんがまたどこかへ去っいくのを見つめた。
プレゼントを手にした僕は、部屋に戻った瞬間すぐ眠ってしまった。
きっとこれは夢かもしれない。その次の朝もそのプレゼントはあったけど、サンタさんに会ったと言ったら、お母さんは、「そんなのいるわけないでしょ」と言うだろうから。
だから「お母さん、プレゼントありがとね?」と言ったらお母さんがきょとんとした顔をしていた。
「それどこで貰ったの?」
聞かれたので、本当のことを言っていいか迷ったけど
「えっと、サンタさんから」
と言うと、お母さんは最初おどろいた顔をしていたけど、その後「そう」と笑って頭を撫でてくれた。
その後、僕の家にサンタさんは来ることはなかったし、うちにプレゼント買う余裕もなかったけど、僕にとっては忘れられない思い出になったんだ。