白糸馨月

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お題『大空』

 戦争が終わった。だが、俺はかけがえのない親友を亡くした。俺たちの国は勝ち、仲間たちが祝杯をあげているなか、俺はそんな気にはなれず、ひとり崖の方へ行って膝を抱えていた。
 俺もあいつもただの下っ端の兵隊で、将軍に攻撃が飛んでこようものなら、それの盾になるべき存在だ。要するに使い捨て。代わりはいくらでもいる。
 それなのに俺の親友の代わりなんていないのだ。
 涙も出ず、ただぼうぜんと空をみあげていると上から
「どうした?」
 って聞き慣れた声が突然聞こえてきた。あたりを見回しても誰もいない。あいつはさっき死んだはずだ。それなのに、どうしてか姿を探してしまう。
「残念ながら地上にはいないぜ。空の方見てみな」
 そう言われて空を見上げる。そこには親友が笑いながら俺を見下ろしてるではないか?
「えぇっ!?」
 思わず声を上げると、親友が笑う。
「神様に頼んでお前に最後の別れを告げに来たんだ」
 そう明るく答える親友に俺は首をふる。
「いやだ、お前がいない世界なんて俺は」
「ハハッ、まるで伴侶みてぇだな。参っちゃうぜ」
「親友だってそう思うだろ。俺には家族なんていなかったから」
「そうか」
 すると、親友は真顔になって俺に言った。
「俺のいない世界で生きていたくないと言うけどな、俺はお前が後を追おうものならすぐに追い返すぜ」
「でも」
「そんなことしやがったら俺とお前との友情はこれまでだ」
 その言葉に息を呑んだ。親友が言葉を続ける。
「俺がいない世界でもお前は生きて天寿を全うしろ。約束してくれ」
 彼の言葉から有無を言わせない雰囲気を感じていた。内心納得していない。本当は後を追いたいし、だけど、それで友情が壊れるのは嫌だ。だから
「……わかった」
 そう答えるので精一杯だった。親友は笑みを浮かべた後、「じゃあ、生まれ変わることがあったらまた会おうぜ!」と言って親指を立てながら消えていった。
 ただ、青い空が広がるばかりになった。
「さらっと来て、さらっと別れるなよ」
 ようやく俺は膝を抱えて、しばらく悲しみにひたっていた。

12/22/2024, 2:47:40 AM