白糸馨月

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お題『プレゼント』

 友達付き合いをないがしろにしてきた。ついでに恋人なんていたことない。
 家族の誕生日は忘れたことはないが、今も付き合いがある親友の誕生日は正直覚えていない。
 私がこんななので、実家を出て一人暮らしして以降、誕生日を祝われたことがないし、私も誕生日というものにとくになんの感情を抱かなくなってしまった。
 そんな時、たまたまマッチングアプリで二回目に会う男性からちいさなピンクのバラ一輪の花束っぽいのを渡された。とつぜんのことだった。
「これ、なんですか?」
 と聞いたら、彼はおどろいたような顔をして
「今日って誕生日じゃなかったでしたっけ?」
 と言われた。たしかに今日はたまたま私の誕生日だ。そういえば先週会った時、そんな話をした気がする。
「たしかに今日ですけど、まさかもらえると思ってなくて」
「あ、あのいやでしたか?」
 男はすこしだけ悲しそうな顔をした。知り合ったばかりの人からプレゼントされて困惑しているのは事実だが、その一方で悪い気がしていないのも事実。
「いいえ、ありがとうございます。普段あまり人から祝われることがないので嬉しいです」
「ほんとですか! じゃ、これからなんかの記念日にたくさん祝いましょうね!」
 バラの一輪を受け取ると、彼が嬉しそうに顔をパァっと明るくさせる。
 正直まだこの目の前の男と付き合うかどうかは分からないが、人から祝われるのは嬉しいものなんだな、と何年か前に家族からやってもらった誕生日パーティーで受けた温かい感情を思い出していた。

12/23/2024, 11:41:43 PM