お題『命が燃え尽きるまで』
「命燃え尽きるまで、がんばろー!」
運動会のクラス対抗応援合戦の前、クラス全員で円陣を組み、クラスの目立つ女子が声を張り上げた。皆もそれについていくように「おー!」と歓声をあげる。
だが、私は『運動会ごときで命を燃やし尽くすな』とつっこまずにはいられなかった。私一人だけそれに参加してないことがバレないように口パクだけで合わせた。
クラスの目立つ男女がてづくりのきらびやかな衣装を着ているうしろで、その他大勢の私達がポンポン持って踊る。正直、やる気はないし、クラスの結果がどうなろうと私にとっては知ったことではない。クラスの目立つ奴から私がなんとなくバカにされていることが分かるからなおさら協力する気なんてない。
「めんどくせぇ」
とこぼす私の横から「だよな」と声が聞こえる。私と同じようにやる気ない奴がいたんだと思う。そいつは、顔がいいだけで目立つグループにいたが、最近なんかあったのか一緒にあいつらとつるまなくなったクラスメイトだった。
「あいつら、自分達が目立ちたいだけなんだよ」
「そう、そうなんだよ!」
私は思わず小声で同意した。この男、こんなに陰気だったかと思うと同時に親近感がわく。
「あいつらのことだから、自分たちだけで気持ちよくなってるだけだわ、マジできしょい」
「へぇ、君ってそんなこと言うんだ」
「言う言う、だってあいつらウザイし」
そうこう言っているうちにパフォーマンス開始を告げるホイッスルが鳴る。私達はさすがにクラスの和を乱す勇気がないので、テキトーにちゃんとやってますよ風を装った。
だから、余計なことを考える暇があるんだろう。
『こいつともっと話がしたいなぁ』
気のせいかちょっと視線を感じる。こいつも同じ考えだと嬉しいなと思ってしまった。
お題『夜明け前』
目が覚めたら、午前四時だった。これで二度寝してしまおうか。そう思ったけど、みょうに頭がすっきりしてどうにも眠れない。
でも、起きるにはまだ早すぎる。外は暗くて、なにかをしようという気にはとてもなれない。
外でランニングするという趣味はないし、スマホゲームは正直最近やる気がでない。本を読むのもなんだかめんどくさい。
とりあえず、横になってめをつむっているか。
そうやって、とくに眠気もこないまま四時間ほどが経過した。もうすこし短いと思っていたのだが、じつは眠っていたらしい。
さすがに起きないと仕事に遅れてしまう。幸い、仕事は在宅だからよかった。
僕はそそくさと起きて、人として終わらなくて良かったと安心して、仕事用のパソコンに向かった。
お題『本気の恋』
本気の恋なんてドラマでしか見たことがない。
まわりでゴールインした人の話を聞くと、正直「好きで好きでずっといっしょに居たいから結婚」じゃなくて、「何年も一緒にいるし、彼氏をつついてその気にさせた」だの「さめてたけど、こいつしかいないんだもん仕方ないじゃん」だの「相手、私のこと好きでいてくれるし、まいっか」だの……まぁ本気で恋して結婚した人なんていないんだなと思う。相手の男が気の毒だなとも思ったりする。というか、よくそういう相手といちゃいちゃできるよなぁと冷めた目で見てしまう。
私は、そういう同性達と同じわだちを踏みたくてなくて、「本当に好きになれそうな人」を探して恋人を探したり、結婚相手を探したりするが何年もかかってることを考えると「私にはそういう人がいなかったんだな」と本気で思うようになる。
ドラマみたいに喧嘩しあいながら最後は心から通じ合えるような恋愛に憧れていた。でも現実は「このひとでいいか」くらいでみんな付き合ったり結婚したりしてるんだ。
私もそういう人を探しては、近寄られる度「あ、ノーセンキューです、やめてください、きしょい」ってなるのを繰り返している。だが、私の場合、嫌いな食べ物を何度か口にしたら食べられるようになったのと同じようにしないと、人並みに恋愛することが難しいんだと思う。
なんだか、恋愛とか結婚って、我慢なんだなと思う。
お題『カレンダー』
パソコンのカレンダーを見ながら私は焦る。
明日は推しの誕生日。深夜〇時をまわった瞬間に投稿して、波に乗らなければならない。
だけど、推しのイラストはあと一歩のところだ。できるだけ時間をかけたくて二週間前から始めている。
時折、残業と疲れに邪魔されながらあとは仕上げという段階に来ている。
これまで道のりは平坦ではなかった。推しの顔がかわいく描けなくて何度も描き直したり、ポーズやらシチュエーションやらが描くのに高度な技術がいるし、背景まで描いているものだから自分で自分の首をしめているようなものだった。
でも最高な推しの誕生日を祝いたいから、私も可能な限りこだわりたいのだ。推しに喜んでもらえるように。
けれど時間は二十三時を回り始めている。塗り残しがないかどうか、ミリ単位で確認して文字もイラストから浮かないようにして無断転載対策にクレジットも邪魔にならないところにいれて、何度も何度も確認を重ねて投稿を待つだけになった。
私はツイッターを開いて、今年の推しの誕生日タグと、イラストを添付して〇時を待つ。
五、四、三、二、一……〇時になった瞬間に投稿ボタンをクリックした。
タグを開くと私と同じことを考えているフォロイーさんの絵がたくさん目に飛び込んでくる。
私の絵にもいいねとリツイートがされつつあって、ふと、ある通知に目が行って思わず口角があがる。
推しがいいねのみならず、リツイートしてくれたのだ。
私はよっしゃぁ! とガッツポーズして、いいね欄とリツイート欄にいる推しのアカウント画像をスクショした。
お題『喪失感』
何年も受からなくて、それでも必死になって頑張って勉強し続けた資格試験にようやく合格した。
心臓がうるさいほど鳴り続ける中、僕は精神的なダメージをできるだけすくなくするために落ちた時の振る舞い方のシュミレーションをして合格発表をスマホで見ていたら、自分の番号を見つけた。
両腕をおもいきりふり上げて「よっしゃー!」と叫んだ、と同時に心にぽっかり穴があいた気分になる。
我に返った僕はゆっくりと腕をおろした。
「そうか、ここ何年もずっと、勉強以外してないな」
床を見つめてぽつり、呟く。僕はベッドの上に転がると、スマホを見始めた。
『新しい趣味 おすすめ』と検索エンジンに打って、ボタンを押す。すると、何件も検索結果が出てくるではないか。
僕はこの中で一番上に出てきたページを開くと、『旅行』という文字が目に入ってくる。
今まで、友達としか行ったことがないし、最後に行ったのは学生時代か。そういえば時々会う友達に一人旅はいいぞ、とすすめられたことがある。
旅行なんて慣れてないし、一人ならなおさら怖い。だが、僕ももういい年だ。そんなことを言ってられないだろう。
なんとなく興味がわきそうな温泉地を検索し始める。その時、僕は心にあいた穴がじょじょに埋まっていって、むしろ高揚感すら覚えるようになっていった。