白糸馨月

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お題『喪失感』

 何年も受からなくて、それでも必死になって頑張って勉強し続けた資格試験にようやく合格した。
 心臓がうるさいほど鳴り続ける中、僕は精神的なダメージをできるだけすくなくするために落ちた時の振る舞い方のシュミレーションをして合格発表をスマホで見ていたら、自分の番号を見つけた。
 両腕をおもいきりふり上げて「よっしゃー!」と叫んだ、と同時に心にぽっかり穴があいた気分になる。
 我に返った僕はゆっくりと腕をおろした。
「そうか、ここ何年もずっと、勉強以外してないな」
 床を見つめてぽつり、呟く。僕はベッドの上に転がると、スマホを見始めた。
『新しい趣味 おすすめ』と検索エンジンに打って、ボタンを押す。すると、何件も検索結果が出てくるではないか。
 僕はこの中で一番上に出てきたページを開くと、『旅行』という文字が目に入ってくる。
 今まで、友達としか行ったことがないし、最後に行ったのは学生時代か。そういえば時々会う友達に一人旅はいいぞ、とすすめられたことがある。
 旅行なんて慣れてないし、一人ならなおさら怖い。だが、僕ももういい年だ。そんなことを言ってられないだろう。
 なんとなく興味がわきそうな温泉地を検索し始める。その時、僕は心にあいた穴がじょじょに埋まっていって、むしろ高揚感すら覚えるようになっていった。

9/11/2024, 3:40:16 AM