お題『最初から決まってた』
俺が歩む人生の流れは最初から決まってるらしい。それは、物心ついた瞬間に自分が歩む人生のストーリーが全部見えてしまったからだ。
入る高校や大学は決まってるし、どこに就職するかも決まってるし、将来結婚する相手も決まってるし、子供は何人で、孫は何人、それから最期に心不全で亡くなることまで全部見えてしまった。
一時は、こんな先が見えてる人生はつまらないと思って、一生の趣味になると言われてる野球をやめてバンドを始めたり、結婚相手とは程遠いかわいいだけの女の子を狙ってみたり、本来就職する業界とはまったく違う業界に面接に行ったりしたが全部だめだった。向いてなかった。
ギターのフレットが思うようにおさえられなくて切れた弦で怪我してからいやになってライブ出る前にやめたし、かわいいだけの女の子は俺に目もくれない、受けた業界は周りのメンバーが華やかすぎて地味な俺には眩しすぎた。
そうやってようやく諦めたのが三十になる前だ。職場で主任に昇進して、気が合う一つ年上の同期と結婚を決めて、「あぁ、俺幸せだ」って悟ったんだ。ちなみにそのどちらも最初から決められてたものだった。
これからも俺は最初から流れが決められてる人生をなんだかんだ幸せだと思いながら生きていくんだろうなと思う。
お題『太陽』
吸血鬼はとうとつに海に行きたくなった。それも日中の海岸に。しかし、吸血鬼は太陽に弱い生き物である。
それでも夏を満喫したかった吸血鬼は、たまたま海岸にあった木の下を陣取り、さらに自前で持ってきたパラソルと寝そべれる椅子を置いて、アロハシャツに膝丈の水着、サングラス、麦わら帽子といった出で立ちで寝そべっていた。
友だちとの話題の種にするための写真をスマホで欠かさず撮り(吸血鬼用のスマホ。吸血鬼がちゃんと写る特殊なカメラである)、そのあとはお気に入りの本を読んだり、遠くで海辺で遊んでいる人間をぼーっと眺めたりしていると、横に知らない日焼けした女が現れた。
「うわぁ、吸血鬼が海にいるのめずらしー!」
「あ、ども……」
現代では吸血鬼がいるからといって、特に恐れられたりしない。人間と変わらず共存している。しかし人間、吸血鬼関わらず知らない人に話しかけるのも珍しいと思う。
それからすこし話して、というより女性が一方的に話しているのを吸血鬼が聞いてるだけなのだが、最後に女性が吸血鬼のスマホをおもむろに手に取り、一緒に写真を撮った。ついでに連絡先も交換した。
「あとで送っといてねー! また遊ぼ!」
そう言って女性は去っていった。
吸血鬼は勝手にツーショットを撮られた写真を見る。なるほど、となりの小麦色の肌をした女性は笑顔が明るくて太陽みたいに魅力的だ。吸血鬼は、女性にさきほどの写真を送りつつ
「あとで友だち自慢しよ。キレーな女の人と知り合いになったって」
と口角をあげながら、呟いた。
お題『鐘の音』
鐘が鳴った瞬間が勝負のはじまりだ。
昼休み前の授業中、一部のやつらがソワソワしている。俺もその一人だ。なぜって、今日は滅多に出てくることがないこんがりカリカリ揚げパンが学食に出るって言うんだから。
数学教師のふわふわした授業なんてどうでもいい。
俺はずっと教室の時計を見つめている。
五、四、三、二、一……
チャイムの音がなって、先生が「では今日の授業はここまで」と言った瞬間に俺は席を立ち、走り始めた。
教室には俺と同じことを考えている奴が数名ほどいるし、教室を出たら俺と同じように走っているやつが大勢いた。
俺のクラスから食堂まで意外と距離があるのか痛いがこういう時だけ無駄に足が速くなるというもんだ。
他の奴等に目もくれず、走って走って走って……
食堂に着いた時、揚げパンの数はすでに少なくなっていた。俺はなんとか歯を食いしばり、隣からぶつかってくる体格が良い知らねぇやつをどうにか押しのけて、俺はパンに手を伸ばす。もうあと三つくらいしかなかった。運が良い。
「おばちゃん、これください!」
「はいよ」
そのまま制服のポケットから小銭を出して無事に揚げパンを手に入れる。
争奪戦を無事に勝ち抜いた俺は膝をついて落胆する奴等を横目に見ながら勝利の鼻歌を歌った。
お題『つまらないことでも』
子供の頃、とある剣士に弟子入りしていた時期がある。その剣士は魔王を倒したメンバーのうちの一人だ。
ただの憧れから「剣士様みたいに強くなりたいです」と言って、剣士もこころよく受けてくれた。
だけど、その修行内容はとてつもなくつまらなかった。
倒される練習と、素振りをするだけ。たまに剣士に打ち込むことをするだけ。いっこうにモンスターと戦わせてくれない。
だから一回、剣士の目を盗んで村の外へ出て魔物退治に出かけたことがある。ザコだと思っていた魔物に苦戦した。
倒される練習を怠ったからダメージが余計に増えるし、剣を振るパターンも覚えきれておらず敵に対処出来なかった。散々ダメージを食らって死にかけた。
師匠が俺を助けに来てくれなければ俺は今この世にいないだろう。
あれから心を入れ替えてひたすら同じことを繰り返し、実践もさせてもらえるようになり、いつしか俺は師匠のおかげで近くの王都の騎士団に所属するようになった。
つまらないことでも、鍛錬を地道に積んだ成果である。その結果、今は騎士として様々な人を助けることができているのだから。
お題『目が覚めるまでに』
誰よりも早く目が覚めた俺は、部屋に来てくれた友達たちのひどい有様に思わず笑みを浮かべる。
その日は俺の引越で、荷物を運ぶ手伝いに来てくれたついでに部屋で飲み明かしていたらそのままいくつか屍が転がっているような状態になっていた。
俺はふと、床に転がっている『マッキー』に目がいった。これは何かの天啓かと思った。
笑いを必死に噛み殺しながらマジックを拾うと、まずいちばん近くにいる友達の横にしゃがむ。これは、友だちの目が覚めるまでに行わなければならないミッションだ。と自分に言い聞かせる。
起こさないようにそっと、そぉっと額に『肉』と書く。
それからまた移動して、今度は別の友だちに簡単な目玉を、一人いるイケメンの友だちにはなんとなくどこかの漫画で見たことある十字架のマークを書いてあげた。
さて、起きた時の反応が楽しみだな。
俺は口笛を吹きながらポケットにタバコをつっこんで、楽しい気持ちになりながらベランダに出た。