白糸馨月

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お題『鐘の音』

 鐘が鳴った瞬間が勝負のはじまりだ。
 昼休み前の授業中、一部のやつらがソワソワしている。俺もその一人だ。なぜって、今日は滅多に出てくることがないこんがりカリカリ揚げパンが学食に出るって言うんだから。
 数学教師のふわふわした授業なんてどうでもいい。
 俺はずっと教室の時計を見つめている。
 五、四、三、二、一……

 チャイムの音がなって、先生が「では今日の授業はここまで」と言った瞬間に俺は席を立ち、走り始めた。
 教室には俺と同じことを考えている奴が数名ほどいるし、教室を出たら俺と同じように走っているやつが大勢いた。
 俺のクラスから食堂まで意外と距離があるのか痛いがこういう時だけ無駄に足が速くなるというもんだ。
 他の奴等に目もくれず、走って走って走って……
 食堂に着いた時、揚げパンの数はすでに少なくなっていた。俺はなんとか歯を食いしばり、隣からぶつかってくる体格が良い知らねぇやつをどうにか押しのけて、俺はパンに手を伸ばす。もうあと三つくらいしかなかった。運が良い。
「おばちゃん、これください!」
「はいよ」
 そのまま制服のポケットから小銭を出して無事に揚げパンを手に入れる。
 争奪戦を無事に勝ち抜いた俺は膝をついて落胆する奴等を横目に見ながら勝利の鼻歌を歌った。

8/5/2024, 11:39:08 PM