白糸馨月

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お題『太陽』

 吸血鬼はとうとつに海に行きたくなった。それも日中の海岸に。しかし、吸血鬼は太陽に弱い生き物である。
 それでも夏を満喫したかった吸血鬼は、たまたま海岸にあった木の下を陣取り、さらに自前で持ってきたパラソルと寝そべれる椅子を置いて、アロハシャツに膝丈の水着、サングラス、麦わら帽子といった出で立ちで寝そべっていた。
 友だちとの話題の種にするための写真をスマホで欠かさず撮り(吸血鬼用のスマホ。吸血鬼がちゃんと写る特殊なカメラである)、そのあとはお気に入りの本を読んだり、遠くで海辺で遊んでいる人間をぼーっと眺めたりしていると、横に知らない日焼けした女が現れた。
「うわぁ、吸血鬼が海にいるのめずらしー!」
「あ、ども……」
 現代では吸血鬼がいるからといって、特に恐れられたりしない。人間と変わらず共存している。しかし人間、吸血鬼関わらず知らない人に話しかけるのも珍しいと思う。
 それからすこし話して、というより女性が一方的に話しているのを吸血鬼が聞いてるだけなのだが、最後に女性が吸血鬼のスマホをおもむろに手に取り、一緒に写真を撮った。ついでに連絡先も交換した。
「あとで送っといてねー! また遊ぼ!」
 そう言って女性は去っていった。
 吸血鬼は勝手にツーショットを撮られた写真を見る。なるほど、となりの小麦色の肌をした女性は笑顔が明るくて太陽みたいに魅力的だ。吸血鬼は、女性にさきほどの写真を送りつつ
「あとで友だち自慢しよ。キレーな女の人と知り合いになったって」
 と口角をあげながら、呟いた。

8/7/2024, 3:59:39 AM