お題『あなたがいたから』
俺の主である第三王子がこのたび即位することになった。戴冠式で国民たちが浮き立ち、お祝いムードの中、俺は周囲から目を離すことはなかった。
いつ命を狙われてもおかしくない。第一王子は、幼い頃病で亡くなり、第二王子は護衛のすきを狙った凄腕の弓使いに毒矢でやられた。
だから油断できないのだ。
城内の一室に戻り、俺達護衛は退場しようとする。が、俺だけ王に呼び止められた。
俺はひざまずき、頭を垂れた。王の靴が見える。普通王は大したことがない用で自ら歩み寄ったりしない。だが、王は俺の頰に手をそえると
「顔をあげろよ。ここには俺とお前の二人しかいない」
と、くだけた口調で言った。「おもてをあげよ」ではなく――俺は言われるがままに顔を上げる。前に「そんなもったいなきお言葉」と言ったら、目の前の王からお叱りが飛んできたことがあった。また、ついでに二人だけの時は敬語も禁止されている。幼い頃の王が王宮から抜け出して市井に遊びに来た頃に会った時からの友人だからだ。
平民の出であるはずの俺が護衛隊長にされてるのも、目の前のこいつのはからいだ。
「先代の王のように馬車の中にいればよかったんだ。それなのにお前と来たら、馬に乗ってパレード……まったく、護衛のこっちの身にもなって欲しい」
「いいだろ、べつに」
王は俺の前であぐらをかいた。
「そもそも顔がわかった方が国民も身近に思ってくれんだろ」
「こっちは、より神経をすり減らさないといけなくなったんだが」
「おかげで飛んできた矢がお前の剣に跳ね返された。それはもう見事だったぜ?」
「見事、じゃないだろう! まったく……」
自分の主だが、自らの立場を鼻にかけることを嫌うざっくばらんとした人柄だ。
「でも、お前がいてくれたおかげだ。俺は死なずに済んだ。ありがとな、タイチョーさん」
王は、端正な顔に血筋を裏切る粗野な笑みを浮かべて俺の肩をたたいた。
「わかった。だが、今まで以上に無茶するなよ」
「へーい」
この高すぎる身分を逆の意味でわきまえないこの無駄に美形な男に俺はため息をついた。
お題『相合傘』
「傘、入る?」
って聞かれたので、頷いてそのまま入ってしまった。学校から帰る時、激しい雨が降っていたので下駄箱前のひさしのところでやり過ごそうとしたら、たまたま好きな子と目があってしまった。
彼女は、折りたたんでいた花柄の傘を開いたところだった。
それで今、俺のとなりには憧れの女の子がいる。
なにを話そうか迷った時、ふいに彼女が口を開いた。
「天気予報はずれたねー」
「あ、あぁ」
本当は天気予報なんて見てないのに、彼女に『ニュースを見ないやつ』だと思われたくなくて話を合わせる。
俺を見上げてくる好きな子はすごく可愛い。会話がはずまなくてもとなりにいるだけで目の保養だ。だから、じっと見てしまうことで嫌われるのを避けたい。
「あ、あのさ」
「なに?」
「どのへん住んでんの?」
「えっと、●●かな。一本乗り換えたとこ」
「あ、そうか」
「山田くんは、学校から近いんだっけ。いいなぁ」
そう、高校は家から一番近いところを受けて選んだ。なのに彼女はすこし遠くて、帰りが別れることにすこし落ち込む。
けど、となりにいるだけで幸せな気分なので俺はあれからも必死に会話を続けた。べつに話ははずまなかったけど、彼女が笑ってくれたからよしとする。
お題『落下』
友達の提案に乗るんじゃなかったと思う。大学の仲いい友達と海外旅行へ行き、誰が提案したのか、今すごく高い場所にいる。
水着姿で足に紐をくくりつけられて上半身にライフジャケットを身に着けたかっこう。俺は今から高所からバンジージャンプを決めようとしている。
上から見る景色は壮観で、激しく流れる滝と雄大な湖が見えるが、それが逆に恐怖を誘った。
友達はもう皆、バンジージャンプをすませている。遠くて顔があまりよく見えないが多分にやにやしながらこちらを見ているだろう。腹立たしい。
だが、ここでやらなかったら何年かにわたってネタにされるだろう。それは避けたい。
俺は意を決して飛んだ。
たしかに景色は綺麗だが、それを味わう余裕は引っ張られるゴムと上下に体が弄ばれる感覚によって奪われてしまう。
何度かバンジージャンプを終えて、紐からつられるだけの状態になって俺は湖にしかれたマットの上に降ろされた。
よろよろしながら友達のもとへと帰ると
「お前、目ぇ死んでね?」
と笑われた。こいつら、あとで覚えてろよ。
お題『未来』
未来が見えたところで正直、この平和な世の中では大したことない。私には、生まれつきすこしだけ先の未来を予知する能力がある。これは、お母さんにもあるから多分遺伝なんだと思う。
月曜日に学校行く前にこの能力を使って、無用なトラブルを避けるくらいしか役に立たない。おかげで学校生活、特に目立つことなく、誰かに目をつけられるということもないまま平和に人生を歩めている。
「ねぇ、私彼氏できたんだ!」
放課後、カフェで新作のいちごパフェをつついてる時に親友から報告を受けた。高校生ならきっと普通なのだろう。
ただ、私達は女子校で異性との出会いには恵まれていない。
「おめでとう。どんなひと?」
「えっとねぇ、バンドやってるの! 歌ってる姿がすっごくかっこよくってぇ、他に女の子がいるのに私に話しかけてくれてぇ、この前付き合おうって言ってくれたの!」
「ふぅん」
親友は正直、めちゃくちゃかわいい。この前の文化祭でミスコンに出されてたから一般的に見ても可愛いだろう。
だが、いやな胸騒ぎがする。私は目に力を入れ、彼女を視界に入れた。
親友が男に連れられて歩いている。その先には何人もの下着姿の男女。そして、日付は来週の土曜。
吐き気を催したくなるビジョンに頭をふる。
「どうしたの?」
「あのさぁ、来週の土曜日あいてる?」
「うん、あいてるよ!」
良かった、まだ予定が入ってない。
「今度二人でディ●ニー行かない?」
「えっ! あれ新しいアトラクション出たんだよね! 行きたーい!」
「よし、じゃ行こう」
念のためもう一度未来予知して、私と親友の二人がアトラクションを楽しんでるビジョンに変わったのを見る。回避できたことに私は胸を撫で下ろした。
お題『1年前』
時の流れが早すぎることを実感する。今の推しを推し始めたのは、ちょうど一年前か。Vtuberとしてデビューした当初から推していた。
それが珍しくグッズ情報が出て、そこに『1st Anniversary』と書かれていた。ものすごく最近のつもりでいたのにもうそんなに経つのかと思う。
思えば、とある漫画にハマってて『これ最近の漫画でー』と言えば、友達から『えっ、これ七年前から連載してるよ』と言われたことを思い出した。
毎回この現象に出くわすたびにショックを受けるのだ。