白糸馨月

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6/16/2024, 1:24:39 AM

お題『好きな本』

 好きな本は無限に増えていく。読むのは遅いけど、読書は習慣として続けてて、本を読み終えるごとにその内容にハマれば好きな本が無限に増えていく。
 ただ、多すぎてたまに忘れることがある。
 そういう時のために読書記録アプリなるものを入れている。本を読み終えるごとにその本と一緒に読み終えたばかりの新鮮な感想を記録することにしている。
 たまにアプリを開いては感想を見て、「あぁこれも好きな本だった」と思い出すこの瞬間がたまらなく楽しい。

6/15/2024, 2:10:11 AM

お題『あいまいな空』

 雨が降るか分からない空だ。青空のように見えるけど、それはほとんど雲で覆われてて、すこし日がかげっているように見える。
 ただ、今日の天気予報では降水確率は低かったのを覚えてる。だから、傘を持ってきてない。
 完全に油断した。
 でかけている途中、急に空が暗くなって雷まで鳴り始めた。
 はげしく降る雨の中、私は慌てて近くのひさしがある店で雨宿りする。

「ついてないなぁ」

 傘を持っていかなかったことを後悔した。それから急にグレーに色を変えたあいまいな空をすこし恨みがましく見上げた。

6/13/2024, 3:40:27 PM

お題『あじさい』

 母とは長いこと会ってない。父が他に女をつくって出ていって以来、家は居心地が悪く、母は常に情緒不安定だった。
 子供のころはなんとか母を元気づけようと頑張っていたが、年が経つにつれ疎ましくなり、成人して仕事を見つけて出ていった。それ以来帰っていない。
 反抗期のそれとは、違う。父がいない寂しさから僕に「どこにも行かないで」とすがるか、父に容貌が似てきた僕に暴力をふるうかのどちらかだった。

 それが今、どうしてか帰郷している。僕と同郷の友人が母の様子を知らせに来たからだ。

「お前の母さん、倒れて今寝たきりだって」

 母とは随分疎遠だ。もう長くないかもしれない。そう思って、列車に乗って都市部からかつて住んでいた村まで行き、僕は入口で足を止めた。
 黒い傘をさしながら、通路の両側に咲く青や薄紫のあじさいを見て、きれいと思うより気が重くなった。
 雨ばかり降る大嫌いな故郷だ。そこのあたりで何度母に投げ飛ばされて泥まみれにされただろう。
 いやな記憶を頭からぬぐいさりながら実家へ続くぬかるんだ道を行く。

 白い家の扉を開けると、母が眠っているのが見えた。僕は傘を傘立てに置いて母のもとへと向かう。コートを脱がないのは、様子を見たらすぐ帰るためだ。

「母さん、帰ってきたよ」

 母は、目を見開く。

「あ、あな……あなた……」 

 母は、言葉がおぼつかない様子だった。思ったよりも状況はかんばしくない。昔のようにすがられたり、暴力をふるわれる心配はないが、母の様態を見て複雑な気持ちになる。
 ふと、母がふるえる指でどこかを指した。そちらに視線を向けると、テーブルの上に花束が置かれている。たしか、緑から白へと変色するアジサイ――アナベルだったか。

「これを僕に?」

 母に問いかけると、よわよわしく頷いた。アナベルの花言葉は、知ってる。とてもきれいで不思議な花だから覚えていた。

『辛抱強い愛情』

 僕はなんともいえない気持ちになった。愛してくれていたのか、母のことだから「あんたがいなくなったから私は」とすがっているのか、言葉を話すことが難しい今はもう分からない。
 だけど、僕が帰ってくると聞いたからわざわざ用意してもらったのだろう。

「ありがとう、母さん。また来る」

 僕は花束を抱えて家を出る。黒い傘を広げて、グレーの空を見上げる。結局、僕は母さんをほうっておくことはできない。
 アナベルの花言葉には、もう一つある。『ひたむきな愛』、僕は母さんからの愛情を信じることにしようと決めた。父がいなくなる前、ただ僕に優しかった遠い遠い記憶に想いをはせた。

6/13/2024, 3:43:58 AM

お題『好き嫌い』

 最近話題になっている花屋がある。とある魔術師が店主をしているのだが、いわゆる『花占い専門』の花屋で客から花を選ぶことはできず、店主が花を選んで渡してくれるらしい。
 ちなみに花占いにつかった花は、花びらをすべて取り終わったら消える仕組みとのことだ。
 今、僕の手元にはその花屋で買ったうすいピンクのガーベラの花がある。

「かならず好き、嫌いの順で花びらを一枚ずつとってください」

 そういう決まりなのだそうだ。僕はいぶかしみながら花びらを一枚ずつむしる。
 あたまのなかにある女の子のことを思い浮かべながら。そういえば、このガーベラの色は彼女の雰囲気にとても似合っている。

すき、きらい、すき、きらい

 最後に一枚花弁が残った。これをとったら「すき」ということになる。

「そんな、まさか」

 僕は、最後の一枚をむしると、ガーベラは消えた。

(ほんとうにあの子は僕のことを好きなのだろうか?)

 正直、疑わしい。そう思っていると、たまたま制服姿の女の子が物陰に隠れている僕を見ていた。まさしく僕が頭のなかに思い描いていた女の子で、恥ずかしさで体が熱くなった。
 その場から急いで逃げようとすると、女の子に腕をつかまれる。

「待って! 話があるの」

 そう言った彼女の頬はどこか赤く見えた。僕は期待と不安が入り混じった気持ちになる。もしかしたら、花占いは当たってるのかもしれない。もう覚悟を決めよう。

「僕も話があるんだ」

 どうか彼女の話したいことと僕の話したいことが同じでありますように。そう願いながら僕は彼女に想いを伝えた。

6/12/2024, 2:55:47 AM

お題『街』

 今住んでいる住宅地に不自由はしていない。各停しかとまらない最寄り駅だから、あたりにあまり人がおらず静かで、三駅くらい電車に乗ればすぐ交通の便がいい大きな駅にたどり着くからどこに行くにも楽だ。
 だが、それでも時々どこか遠くへ行きたくなる。在宅勤務がはじまって四年目に突入する。会社いかなくても仕事ができるのは楽だが、もともと友達がすくないし実家は遠いから人とのつながりが遮断されてしまった。仕事をしているという事実だけが、唯一俺の心を軽くしている。
 家のなかにずっといると心に栓をされた気持ちになって時々さけびたくなってしまうのだ。
 だから、俺は時々Youtubeで異国の街並みを眺めるだけの動画を見ている。今、日本から海外へ行くと円安のせいで物価が高くなかなか行かれない。
 Youtubeで動画を見て、行った気になっているのだ。台湾のとか、パリとか、ギリシャとか。家にいるのに休みはとりづらいが、夢だけはふくらんでいくのだ。

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