お題『やりたいこと』
「やりたいことを考えてきてください」
面談でそう上司に言われても、僕はなにも思い浮かばない。今まで、上司から指示されたものを淡々とこなしてそこそこの給料を貰う。正直、僕はそれで満足していた。
だが、会社的にそれは許されないらしい。昇進したらたしかに給料は増えるかもしれないけど、その分たくさん働かないといけなくなる。そうなると、自分の時間がなくなってしまう。それは避けたい。
思えば、仕事以外ならやりたいことは浮かぶんだ。絵を練習して神絵師になりたいとか、自分の妄想を小説で具現化したいとか、新発売のクラフトビールが飲みたいとか、FPSでランクを上限まで上げたいとか。だが、仕事方面ではなにも思い浮かばないのだ。
だからといって、辞めたいとは思わない。そうしてしまったら生活が出来なくなるから。
「昇進しなくて済む方法ないかなぁ」
まぁ、いいや。今は考えるのやめよう。僕は今直面している問題から逃げるように布団をかぶった。
お題『朝日の温もり』
朝日を浴びれば体内時計がリセットされて、体が朝をちゃんと朝だと認識してくれるらしい。
そんなものは嘘だと、朝が苦手な私は思う。
眠る時のふとんは、あまり気持ちよくなくて頭のなかを思考がかけめぐるから眠れず、朝になって太陽のあたたかさで眠くなる。
あと、光を浴びた場合、私はなぜか眠くなるのだ。
だから朝眠るのは好きだけど、朝起きるのは大嫌いだ。
お題『岐路』
今、俺はまさに人生の岐路に立っている。
そもそもメンバーを女性だけでかためたのがいけなかった。俺が女好きうんぬんじゃなく、なりゆきでそうなっただけだ。
俺が勇者として旅に出ると言った瞬間押しかけてきた幼馴染、道中助けてあげた半獣の元奴隷、クエストで一人で戦っていた亡国の女騎士。たまたま俺についてきたのが女だけってだけだ。
それでもうまくやってきたつもりだった。だが、新しい海がよく見え白い建物が多い港街に来て、「勇者様もそろそろ年頃だろ。うちの娘はいかがかい?」と宿屋にいきなり豪商が現れて、見合いを打診されたので旅の仲間の女達が険悪になっている。
三人の女が俺をめぐって喧嘩になったのだ。みな、俺に迫って口々に言う。
「あんたのことを昔から一番知ってるのは、あたしなのよ?」
「ご主人様ぁ、ボクとツガイになってくれるんじゃなかったの?」
「共に歩もうと、この手を取ったのは貴様ではないか?」
もうその形相が怖くて、でも目をそらすことも出来ない。そんななか、扉が開く音がする。白のワンピースに身を包んだ可憐な女の子が現れた。
女たちの目線が彼女に行く。
「はじめまして、父から話を聞きました。貴方が私の夫になる御方」
ご令嬢は、女達を気にせず俺のそばに寄る。
「こんなにたくさんの女性に言い寄られるなんて、本当に勇者様は魅力的な方ですね。私、気に入りました!」
ご令嬢が俺の手を取る。三人の女が一斉に俺を睨む。
「あんたこんなどこの馬の骨とも知らない女の手を取るんじゃないわよ」
「ご主人様、ボクだけ見ててよ」
「貴様、騙したのか」
仲間たちが口々に言う中、令嬢は「あら」と口火を切る。
「皆様、勇者様を困らせないでくださいませ。勇者様を幸せに出来るのは私です。それだけの資産を保証できるのは私をおいて他にいないのではなくって?」
彼女たちの間に火花が散っているのが見える。女のバトルに巻き込まれてもう嫌な感じの汗しか出ない。正直、今人生の岐路に立たされているといっても過言ではないが、どれを選んでも地獄。
俺は四人の女に迫られて、嬉しくないどころか、この場から逃げたくて仕方がなかった。
お題『世界の終わりに君と』
大災害が起きた。巨大な地震が何度も続いて、海沿いに住んでいるわけでもないのに津波が襲ってきて、あたり一面が炎に包まれて。
今住んでいる場所では僕と、クラスメイトの女の子、二人だけしか生き残らなかった。黒焦げになった瓦礫の上で、生存者を見つけた喜びなんて僕達の間に起こらなかった。たがいに気まずそうに視線を合わせただけだった。
そのクラスメイトは目立つ位置にいて、自分が一声あげればみんながついてくるのが当たり前だと思っている……そういうのが感じられて、僕は正直苦手だった。多分、向こうも苦手だと思う。生き残ったのがクラスで目立たず、いつも一人で本を読んでイヤホンをしているネクラで悪かったなと思う。
それが今や、二人で協力して生きている。そうせざるを得ない。崩壊したスーパーから無事な食料や飲み物を調達して飢えをしのいでいた。
彼女は時々、一人で出かける時がある。昼から出かけて決まって夜中に肩を落として帰ってくる。それが今日は違ったらしい。
昼に出かけたのだから今日も夜まで帰らないだろう、そう思って瓦礫の上で寝ていたら夕方より前の時間帯になって彼女が帰ってきた。手には白骨化した骨が握られている。
「今日、お母さん見つけた」
その言葉で僕は彼女がいなくなっていた理由を察する。いつも思い詰めた顔をしていたからあえてなにも聞かなかった。
「家が燃えてたからなにも残らないんじゃないかと思って。それでも諦めきれなくて探してたらお母さんの指輪があって」
彼女は、とってきた骨を見せてくる。その指に銀色の指輪がはめられていた。
「だから」
そう言って、彼女は俺にかけよって抱きついてくる。こんな時、ラブコメのウブな主人公なら顔を赤らめて心臓を高鳴らせていただろう。だが、僕はそうならなかった。
二人で生きていかなきゃいけないんだ。僕に恋愛の経験はないが、いちいち感情を揺さぶられてはいけない。
ここで僕にできることは、泣く彼女の背中に腕をまわすことだけだった。
これからなにかあったら、彼女を守らなくてはいけない。なにが起きるか一層わからなくなった世界で感傷に浸っている暇はないのだから。
お題『最悪』
最悪な人生だった。おとなしいと言われる性格のため、学生時代はどの段階でもいじめを受けた。
勉強を邪魔されることが多かったので、頭は悪く、運動能力も劣っていた。
社会人になって、就職した先でも俺は上司にこきつかわれた。俺一人だけ残業させられることがたびたびあった。
唯一味方になってくれた母親は、もともと体が弱く、最近息を引き取った。ただひとりの肉親である母親の治療費を稼ぐためなら頑張れた。でも、その理由はもうない。
その時、俺の中でなにかが崩れたんだ。
気がつくと俺は仕事帰り、電車のホームから飛び降りて終電にはねられて命を落とした。
場面が変わって、若かりし母親の姿があって、俺の手は小さかった。ここで、自分がまた人生をやり直すチャンスを得たことに気がつく。
(今度こそ、最悪な人生を回避しないと)
赤ん坊の姿のまま、俺は決意を新たにした。