お題『世界の終わりに君と』
大災害が起きた。巨大な地震が何度も続いて、海沿いに住んでいるわけでもないのに津波が襲ってきて、あたり一面が炎に包まれて。
今住んでいる場所では僕と、クラスメイトの女の子、二人だけしか生き残らなかった。黒焦げになった瓦礫の上で、生存者を見つけた喜びなんて僕達の間に起こらなかった。たがいに気まずそうに視線を合わせただけだった。
そのクラスメイトは目立つ位置にいて、自分が一声あげればみんながついてくるのが当たり前だと思っている……そういうのが感じられて、僕は正直苦手だった。多分、向こうも苦手だと思う。生き残ったのがクラスで目立たず、いつも一人で本を読んでイヤホンをしているネクラで悪かったなと思う。
それが今や、二人で協力して生きている。そうせざるを得ない。崩壊したスーパーから無事な食料や飲み物を調達して飢えをしのいでいた。
彼女は時々、一人で出かける時がある。昼から出かけて決まって夜中に肩を落として帰ってくる。それが今日は違ったらしい。
昼に出かけたのだから今日も夜まで帰らないだろう、そう思って瓦礫の上で寝ていたら夕方より前の時間帯になって彼女が帰ってきた。手には白骨化した骨が握られている。
「今日、お母さん見つけた」
その言葉で僕は彼女がいなくなっていた理由を察する。いつも思い詰めた顔をしていたからあえてなにも聞かなかった。
「家が燃えてたからなにも残らないんじゃないかと思って。それでも諦めきれなくて探してたらお母さんの指輪があって」
彼女は、とってきた骨を見せてくる。その指に銀色の指輪がはめられていた。
「だから」
そう言って、彼女は俺にかけよって抱きついてくる。こんな時、ラブコメのウブな主人公なら顔を赤らめて心臓を高鳴らせていただろう。だが、僕はそうならなかった。
二人で生きていかなきゃいけないんだ。僕に恋愛の経験はないが、いちいち感情を揺さぶられてはいけない。
ここで僕にできることは、泣く彼女の背中に腕をまわすことだけだった。
これからなにかあったら、彼女を守らなくてはいけない。なにが起きるか一層わからなくなった世界で感傷に浸っている暇はないのだから。
6/8/2024, 2:15:50 AM