お題『もしも未来を見れるなら』
「ねぇ、もしも未来が見えたらどうする?」
小学校の時、幼馴染からそんなことを唐突に聞かれたことを思い出す。その頃の俺は適当に「大金持ちになる」とか答えたっけ。
あれから二十年が経ち、今の俺は金持ちからは程遠い場所にいる。家賃四万円のせまい古いアパートで暮らし、専門学校を卒業してもやりたいことがなかった俺は、そのままコンビニでアルバイトをしている。
決まったことだけをこなす平和な日々に最近、イレギュラーなことが起きているようだ。
俺は最近、数分先の未来が見えるようになった。理由は分からない。ある日突然見えるようになったのだ。
最初は、となりの部屋に住んでるカップルが喧嘩して彼女の方が出ていく映像だった。それが起きたからといって、俺の人生に関わりはないから心底どうでもよかった。
それから客がコンビニで買ったコーラを開けたら炭酸が吹き出して流れるとか、客がコンビニから出た後、雨に振られるとか、俺に関わりがない奴等の未来が見えるようになった。だから、見えても放置してきた。
ある日、夜勤へ向かう途中、横断歩道の前で俺は子供がトラックにはねられる未来を見てしまった。
俺は足を止める。
(もしも未来が見えたらどうする?)
その問いに俺は気恥ずかしくて本音とは違うことを言ったんだ。となりのクラスの幼馴染は、当時いじめられててそのまま不登校になってしまった。しばらくして、遠くに引っ越したあとどうなってるか知らない。
俺は優しくてバカなあいつが好きで、本当は守りたかった。でも、いじめてる奴がカリスマ性があって家が金持ちで頭もよくて、逆らったら俺がいじめのターゲットになりそうだったから目をそらしたんだ。
あいつは、俺に助けて欲しかったんだ。
横断歩道に子供の姿が見える。それから、猛スピードでつっこんでくるトラックも見えてきた。俺は、その場から走って子供に手を伸ばす。
あいつが俺の前からいなくなって、目標もなく生きてきたんだ。最期くらい、誰かを守って死ぬくらいは許されるだろう。
俺のこの未来予知能力は、誰かを守るためにもたらされた能力だと子供の上に覆いかぶさり、トラックが発する眩しい光に照らされながら気付いた。
お題『無色の世界』
俺の故郷は、色を持たない人間が住む街だった。誰もが白髪に白い肌、瞳の色も白。
だが、その街で俺は色を持って生まれてしまった。黒い髪にすこしだけ浅黒い肌、瞳の色は金色。その姿を持って生まれた俺は、街全体で差別を受けていたと思う。外に出れば、毎日お風呂に入ってるのに「汚い子供」とひそひそ噂され、子供達からはいじめを受けた。
父さんの顔は知らない。母さんは、常に俺の味方だった。母さんは街の人間と同じように白髪、白い肌、白い瞳を持つ。俺の味方でいたがゆえに街で立場をなくしていた。
俺を囲っていたから職にありつけず、やっとありつけた職では休ませてもらえず、朝も夜も働き続けた結果、母さんは過労で亡くなった。
そうしたら、街の大人達によって俺は家から引きずり出されて、街の外へ無理矢理放り出された。
「お前のような穢らわしい存在は目の毒だ。二度とこの街に戻ってくるな」
と町長に吐き捨てられたのが最後だった。俺は母さんの葬式もあげさせてもらえなかった。
あれから十五年が経つ。一人歩き続け、やっと着いた大きな街で俺はむしろ自分の姿の方がマジョリティであることを知った。浮浪児だった俺は、悪どいトレジャー・ハンターに拾われてありとあらゆる技を磨いた。
ある時、酒場で依頼終わりに酒を飲んでいたら隣のテーブルから会話が聞こえてきた。
「なぁ、無色人って知ってるか?」
「なんだそれ?」
「そいつらの剥製が高く売れるっつう話なんだけどよぉ」
俺はビールが入ったジョッキを持ち、となりのテーブルへと向かった。
「よぉ、おっさん。俺ぁ、その無色人の情報持ってるぜ」
急に会話に参戦してきた俺に二人の年配の同業者がまばたきしていたが、やがて悪巧みを思いついたみたいに口の端をつりあげた。
「本当かい、兄ちゃん。話だけでも聞かせてくれや」
俺は無色人の街出身。だが、あそこにいる人間は母を殺した。あんな街にいる人間を根絶やしに出来て、しかも金まで手に入る。最高じゃねぇか。
ずっと抱えていた復讐心がここにきて、一気に燃え上がった感覚がした。
お題『桜散る』
花が散りゆく桜並木の下を歩く。今日は、何度も落ちている資格試験の当日だ。
仕事終わってから毎日勉強して、それでも毎回合格点にあと一歩届かないところで毎回桜が散っている。
どこかで『今回こそは、絶対に受かると思う』という気持ちと『どんなに頑張ったって無理だよ』の気持ちが心の中でせめぎあっている。
それに今年に限って、桜がいい感じの時期に満開になっているから嫌になる。俺は、桜並木の下を歩き、時折写真を撮っている人を見かけて「お前らは、いいよな。純粋に花見を楽しめて」とひねくれた気持ちになった。
お題『夢見る心』
子供の頃、私は変身して戦うヒロインに憧れていた。将来の夢のところにヒロインの名前を毎回書いていたくらい。
だけど、小学校に上がった時にヒロインの名前を書いたら同級生からバカにされた。その代わりに「アイドル」と書いたら、「お前、その見た目でよく言うよな」と言われたりもした。
小学校時代はちょっとした黒歴史だった。高学年の頃から身の程をわきまえて「公務員」と書くようになって、そこから無難に生きて大学卒業後にその夢は叶った。
べつに仕事が楽しいわけじゃない。時々クレーム対応に追われるけど、その区に住んでいる人の相談に乗るだけのなにも起こらない穏やかな日々。だけど、日常は退屈で私はアラサーになっても変身ヒロインのアニメを見ては彼女たちのようになりたいと願った。
そんな時、急に自分が住んでいる場所の近くにどうしてか隕石が降ってきた。ぐちゃぐちゃになった商店街で皆が逃げ回る。よく分からない地球外生命体みたいなのが人を襲っていた。
私はたまたま休みの日で家にいて、建物は壊されていない。だが、こちらに来るのも時間の問題だ。すぐにでも逃げた方がいい。
変身ヒロインを夢見る心を未だに持つ私は、それを許さなかった。部屋から金属バットを持ち出すと、スウェットのまま商店街に向かう。
ヒロインになるため、日々筋トレを怠らず、足の速さには自信があった。習い事はキックボクシングだ。
やがて、女性を襲おうとしている地球外生命体に遭遇し、私は回し蹴りを食らわせた。
地球外生命体の動きが止まり、女性が真っ青な顔をしている。
「はやく逃げて!」
女性は、「は、はい!」とばたつく動きでその場から走り去っていく。地球外生命体の腕が振り下ろされ、私はバットでそれを食い止めた。
「あんたの相手はあたしよ! 覚悟なさい!」
たとえ変身ヒロインに覚醒しなくたって、夢見る心があればきっと大丈夫。あたしは歯を食いしばって、沈みゆく足は膝をつかぬよう、敵の拳の重さに耐えていた。
お題『届かぬ想い』
クラスに好きな人がいる。でも、私と彼じゃ立ち位置が違いすぎる。
彼の溌剌とした声がクラスに響くたび、私はいつも読んでいる本に落とした視線を上げられなくなる。彼はカースト上位で、私はクラスで孤立していて多分カーストにも入れられてないんだと思う。
誰かにいじめられたくなくて、からまれたくなくて、休み時間に本を読むようにしたら、まさかそれが自己防衛の手段になるとは思わなかった。
私の想いは絶対に彼に届いてはいけない。届いてしまったらその瞬間から私のクラスでの居場所がなくなるから。
それなのに席替えで彼が隣の席に来てしまった。それだけでも私は視界を狭くしないといけなくなる。普通ならばそこで喜ぶところだろう。私は喜べない。出来るだけ普段通りでいようと心に決めた。
「ねぇ、いつも何の本読んでるの?」
ふと、となりから声がかかる。彼とは今、放課後の日直当番の仕事をこなしていてクラスで二人だけだ。日直の日誌を書いてるときに呼ばれた。
私は平静を装って作家名を言う。すると
「俺もその作家好きだわ」
と言い出す。まさかの趣味の一致になんとも言い難い感情が私の胸の中に渦巻く。そこからさらに予想してなかった事態が起こった。
「これ終わったら、サイゼ行かない? 語りたいわ」
今、私は彼に誘われている。こんなことあってはならない。バレた瞬間、次の日から私はクラスでいじめられるだろう。だが、その意識とは裏腹に私は勢いよく首を縦に振っていた。