白糸馨月

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お題『届かぬ想い』

 クラスに好きな人がいる。でも、私と彼じゃ立ち位置が違いすぎる。
 彼の溌剌とした声がクラスに響くたび、私はいつも読んでいる本に落とした視線を上げられなくなる。彼はカースト上位で、私はクラスで孤立していて多分カーストにも入れられてないんだと思う。
 誰かにいじめられたくなくて、からまれたくなくて、休み時間に本を読むようにしたら、まさかそれが自己防衛の手段になるとは思わなかった。
 私の想いは絶対に彼に届いてはいけない。届いてしまったらその瞬間から私のクラスでの居場所がなくなるから。

 それなのに席替えで彼が隣の席に来てしまった。それだけでも私は視界を狭くしないといけなくなる。普通ならばそこで喜ぶところだろう。私は喜べない。出来るだけ普段通りでいようと心に決めた。

「ねぇ、いつも何の本読んでるの?」

 ふと、となりから声がかかる。彼とは今、放課後の日直当番の仕事をこなしていてクラスで二人だけだ。日直の日誌を書いてるときに呼ばれた。
 私は平静を装って作家名を言う。すると

「俺もその作家好きだわ」

 と言い出す。まさかの趣味の一致になんとも言い難い感情が私の胸の中に渦巻く。そこからさらに予想してなかった事態が起こった。

「これ終わったら、サイゼ行かない? 語りたいわ」

 今、私は彼に誘われている。こんなことあってはならない。バレた瞬間、次の日から私はクラスでいじめられるだろう。だが、その意識とは裏腹に私は勢いよく首を縦に振っていた。

4/15/2024, 11:21:07 PM