白糸馨月

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お題『無色の世界』

 俺の故郷は、色を持たない人間が住む街だった。誰もが白髪に白い肌、瞳の色も白。
 だが、その街で俺は色を持って生まれてしまった。黒い髪にすこしだけ浅黒い肌、瞳の色は金色。その姿を持って生まれた俺は、街全体で差別を受けていたと思う。外に出れば、毎日お風呂に入ってるのに「汚い子供」とひそひそ噂され、子供達からはいじめを受けた。
 父さんの顔は知らない。母さんは、常に俺の味方だった。母さんは街の人間と同じように白髪、白い肌、白い瞳を持つ。俺の味方でいたがゆえに街で立場をなくしていた。
 俺を囲っていたから職にありつけず、やっとありつけた職では休ませてもらえず、朝も夜も働き続けた結果、母さんは過労で亡くなった。
 そうしたら、街の大人達によって俺は家から引きずり出されて、街の外へ無理矢理放り出された。

「お前のような穢らわしい存在は目の毒だ。二度とこの街に戻ってくるな」

と町長に吐き捨てられたのが最後だった。俺は母さんの葬式もあげさせてもらえなかった。

 あれから十五年が経つ。一人歩き続け、やっと着いた大きな街で俺はむしろ自分の姿の方がマジョリティであることを知った。浮浪児だった俺は、悪どいトレジャー・ハンターに拾われてありとあらゆる技を磨いた。
 ある時、酒場で依頼終わりに酒を飲んでいたら隣のテーブルから会話が聞こえてきた。

「なぁ、無色人って知ってるか?」
「なんだそれ?」
「そいつらの剥製が高く売れるっつう話なんだけどよぉ」

 俺はビールが入ったジョッキを持ち、となりのテーブルへと向かった。

「よぉ、おっさん。俺ぁ、その無色人の情報持ってるぜ」

 急に会話に参戦してきた俺に二人の年配の同業者がまばたきしていたが、やがて悪巧みを思いついたみたいに口の端をつりあげた。

「本当かい、兄ちゃん。話だけでも聞かせてくれや」

 俺は無色人の街出身。だが、あそこにいる人間は母を殺した。あんな街にいる人間を根絶やしに出来て、しかも金まで手に入る。最高じゃねぇか。
 ずっと抱えていた復讐心がここにきて、一気に燃え上がった感覚がした。

4/18/2024, 11:31:34 PM