お題『神様へ』
僕が住んでいる村の山奥には、神様ポストと呼ばれる古ぼけたポストがある。そこに神様宛の郵便を投函すると、差出人の願いが叶うという。
今、僕はルーズリーフに書いた手紙を持って急な山道を一人で歩いている。学校から逃げるようにダッシュで帰った後、僕はルーズリーフに神様宛の手紙を書いた。
神様へ
僕は今、学校でいじめを受けています。
いじめの主犯である●● ●●にいじめのターゲットをうつしてください。
お願いします。もういじめられたくないんです。
▲▲ ▲▲
こう書いた手紙を手に握りしめる。やっとポストにたどりつく。まわりの草木は手入れがされてなくて、虫がうごめいている。僕は急いでポストに手紙を投函すると、山から滑り降りるように家路を急いだ。
そうしたら次の日から僕の状況は、一変した。教室に入ってもモノを投げつけられることもなく、えずく真似もされない。僕をいじめていた主犯を避けるようにクラスの皆が教室の端に寄ってる。主犯の机の上にブラジャーとショーツが置かれていて、主犯はうつむいたまま黙っている。
「こいつ、先生の下着盗んだんだって」
「うわ、キモ」
「変態じゃん」
そんな言葉が次々と繰り出される。ふと、主犯と目が合う。主犯は、恐ろしい形相で僕を睨みつけていた。だが、立場が変わったんだ。臆することはない。
僕は満面の笑みを奴に向けて、自分の席についた。すごく気分がよかった。
お題『快晴』
外出た瞬間、熱気と眩しさを感じて思わず目を細めた。
そういえば昨日のニュースで「明日は真夏日になる」とか言ってたっけと思い出す。
そんなこと意識しないで私はシャツの下によりによってヒートテックを着込んでいる。しかも極暖だ。適当に手に取った肌着がたまたまそれだった。それを考えもしないで着ている。まだ春だから暑くならないとたかをくくった結果だ。
「失敗した」
だが、今から着替えても間に合わない。汗だくになるだろうが遅刻よりはマシだ。
私はまずは電車の出発時間に間に合うよう、その場から走り始めた。
お題『遠くの空へ』
ヒーローの必殺技のパンチを頬に喰らい、俺は豪速球の球にでもなったかのように遠くの空へと飛ばされていく。
とあるアニメの悪役のように挨拶する間もない。ヒーローのパンチはとてつもなく大きく重たい分銅のようなもので、喋る間もなく飛ばされるのだ。さしかえたばかりの奥歯がまた粉々に砕けたのだけ分かる。痛みを感じるよりも気圧が体を圧縮していくような感覚を覚えて、気がつくと俺は頭から海の中に落ちた。毎回同じパターンだ。
海の中へ沈められた後、俺は泳いで水面から顔を出す。そこでようやく痛みを感じ始める。何度食らっても痛みに慣れることはない。
船上に都合よく船が停めてあって、そこからうきわがこちらに投げ込まれる。俺はそれに捕まると、引き上げてもらう。
船上に上がると、何人かスタッフがいて
「お疲れ様でした!」
と言って、まずは医務室に案内される。砕けた歯を口の中から出して貰って新しい歯に入れ替えてもらう。それからタオルで包んだ氷の袋を渡されるので、それで殴られたところをおさえる。
治療した医者が口を開いた。
「しっかし、なんで悪役なんてやるんですかね? いくら子供達を楽しませるためとはいえ、そこまで痛い思いをして」
「お金のためですよ」
そう、俺達はビジネスで悪役をやっている。さっき俺を殴ったヒーローは、同じ会社のヒーロー部門に所属している。俺はヴィラン部門だ。ちなみにヒーロー部門よりも給料が1.5倍ほど高い。理由は、ヒーローに比べて怪我が多いからだ。
どうやら娯楽に飢えた一般人のために作った会社で、今は子供に人気があるビジネスにまで発展している。
だが、ヴィラン部門は給料が高い割に人気がなく、離職率も高い。その中で俺は会社創業当初からヴィランをやり続けている。入社時から顔の形が変わったが、もともとイケてないツラなので大して変わらない。
「世間ではヴィランでも、息子のヒーローにはなりたいんです」
「あぁ、息子さんね」
医師は言葉を選ぼうとしている。俺の息子は生まれた時から心臓の病にかかっていて、ずっと病院で生活している。そんな息子の治療費を稼ぐためなら殴られることなんて大した事ない。
俺は決意を新たにして拳を握りしめた。
お題『言葉にできない』
大学の講義が終わって、私は同じ学部でサークルも同じ友達とお昼を食べてる。
「私、最近彼氏出来たんだー」
「へぇ、そうなんだ。おめでとう」
「もう、反応うすいよ!」
そりゃ、反応うすくなるって。だって、一年でもう三人も変わってるじゃん。と言いたくなるのをのみこま……ないんだよな、私は。
「だって、一年のうちに三人目だからねぇ」
「でも、今度は長続きするから!」
丁寧に巻いたツインテールを揺らしながら友達はすこし頬をふくらませた。
「で、今度はどんな人?」
「あ、そうそう! うちの彼氏イケメンなの! ほら!」
イケメンは私も好きだ。今まで目の前の地雷系っぽい女は、何人か付き合ってきたが今まで『イケメン』っていうワードは出てきたことがなかった。長続きするかどうかに関しては信用してないが、イケメンには釣られる生き物だ、私は。すこしは期待しようではないか。
しかし、さしだされたスマホの画面を見て私の期待はあっけなく打ち砕かれた。
プリクラで撮ったから、異常に眼球が大きくなってる男女が二人並んでいる。それはプリクラ特有の効果だからいい。あれは誰がやっても宇宙人と化すから。
だが、友達の横にいる男は一世代遅れている茶髪で片目を隠していて、黒いジャケットの下はなんだかよく分からない英字が描かれたシャツを着ている。おまけにシャツの胸元になぞの鎖の飾り付き。
友達が満面の笑みを浮かべて「どう?」と聞いてくる。
正直、言葉にできなかった。気兼ねない仲とはいえ、人の彼氏を否定するほど私は人間落ちてないつもりだ。
だから
「ゔぃ……ヴィジュアル系みたい、だね……」
と返すので精一杯だった。
お題『春爛漫』
僕の地元には桜並木がある。春になるといっせいに満開になって、道を通れば花のいい香りがして、舗装された道路が散った桜でしきつめられて薄桃の絨毯になる。
そんな季節が僕は好きだ。だが、毎年地元では桜にかこつけて、祭りをやる。そんな時、いろいろなところから人が来る。
いつも満開の時期と祭の時期は大体ずれている。だが、今年に限って祭が開催される日にちょうど桜が満開になった。
僕はいつものように桜並木の下を歩く。違うのは人がごみごみしているか否かだ。人が多いというのに桜の天井は壮観だし、とてもいい匂いがする。
そんな時、僕はふとある露店に目を留めた。
そこは最近地元に出来た花屋で、なんとも大きめな桜の苗木が売っているではないか。たまたま売れていないらしい。サイズが多少大きすぎるからだろう。大人の男性一人分くらいはある。
だが、僕はなにを思ったのかそこのお店に行って
「桜の苗木を一つください」
と言った。決して安くないお金を支払って、僕は大きな桜を抱えながら帰路を行く。お祭りで気分が高揚して、思わず買ってしまった。重すぎて正直腕がちぎれそうだ。だが、日頃から筋トレを怠っていなくてよかったと思う。
僕は親が遺した広すぎる一軒家で一人で暮らしている。老後までずっと時間はあるが、僕は他人に恋愛感情を抱けないから一生一人で暮らすつもりだ。高校の時からずっと悩んで、今まで一度もなく来てしまった。
孤独な人生が確定している中に一本の桜の木が僕の住処にあったらすこしは心が慰められるかな。そう思うんだ。