いつも君の影にいた
広い広い背の後ろにいた
其処はぬるま湯みたいに優しくて
たまに振り返る君の笑顔が
殊の外嬉しそうだったのを覚えている
今は私が前に立つ
眩し過ぎた光を受け止めて
灼き貫く痛みに揺らがずに
時に走る怖気の闇に
堪えること無く叱咤を振るい
そうしてたまに振り返る
私の後ろにいる君が
幸せそうに眠る時
私は嬉しくてたまらない
君を守り愛せることが
幸福に過ぎてたまらない
‹君の背中›
あまり遠くへ行かないで
あまり急いで行かないで
青い鳥も宝物も
結局近くにあったのだから
あまり急いで生かないで
あまり綺麗に逝かないで
その命が宝物と
旅立つ君に言えなくて
立ち止まって手を伸ばしてと
旅立つ君に言えなくて
‹遠く…›
口を噤んで手を結って
目を塞いで耳を断つ
全部焼いて捨てたから
全部沈めて消したから
首刎ねられるその瞬間
息の根絶えるその瞬間
この世の誰もが真実を
知らずに葬り去ったのだ
‹誰も知らない秘密›
空が白み始めた。
薄闇の下で鉛筆を走らせていた目に、
その光は思ったより強く響く。
花弁の雫を落としながら空を見上げれば、
徐々に星が消えていく様がはっきりと。
誰の声もない未だ寝静まる街は、
不思議とどこか知らない街のようで。
観察日記を置いた足は、
知らず何処かへ攫われていく。
‹静かな夜明け›
永遠の愛を誓うよと
差し出した薔薇の花束
暗い夜道に気付かずに
君は笑って受け取った
永遠の愛を示す花
君の所有権を示す花
17本の黒薔薇を
君は笑って受け取った
‹永遠の花束›
互いに以心伝心だったら
サプライズなんて要らないし
イベントもサンタすら必要無かったけど
互いに互いの心が分からなかったから
二人きっと夢を見ていられたのだろう
離れた手は二度と結ばれることはないけれど
それでも二人いられた時間は
確かに美しい記憶になった
‹heart to heart›
柔らかな毛並みを撫でる
君は心地よく目を細める
走れなく萎えた脚を
好物の飲み込めない喉を
傷むばかりの内臓を
抱えて尚君は静かにうたう
残される者に伝う悔悟さえ
光無き眼にはもう届かない
‹やさしくしないで›
水町の向こうに覚えておいて
月の灯の下忘れないで
決して消えない君の罪
ただ一人君は覚えておいて
‹隠された手紙›