さらば友よその背中に
夢果翔ける翼のあろう
さらば父母よその愛に
善なる国への道あろう
さらば子等よその掌に
美しき未来の光あろう
さらば片割よその心に
支う思い出の暖あろう
さらば現世よこの罪が
来世に漱ぐものならば
さらば我が名よ我が肉よ
また遭う事も有るだろう
‹バイバイ›
静謐な水面の美しい
写真を一枚裏書きに
君の名を書いて箱に入れ
幾枚幾日重ねてく
今は届かぬ君のポスト
代わりにいつか手渡しに
巡り巡った人生の
景色をいつか語るため
‹旅の途中›
「殺したくないよ殺したくないよ、
まだ二人で生きていたいよ」
「此処から出たいよ此処から出たいよ、
君と行きたい場所沢山あるよ」
「死にたくないよ死にたくないよ、
まだ君と一緒にいたいよ」
「此処から出たいよ此処から出たいよ、
二人で見たい場所沢山あるよ」
「あぁね、でもね、ごめんね、痛いね」
「君の最期を飾れるの、君の最期は僕だけなの、
とってもたまんない我慢できない」
「だからね、ごめんね、痛くしたね」
「ちゃんとずっと大事にするね、
綺麗にきれいに飾るからね」
「………どうしてそんな顔するの?」
‹まだ知らない君›
薄闇の似合う奴だった
ちょいとした路地裏から手招いて
ちょっとした悪事に突き落とす
暗部と呼ぶには可愛らしく
さりとて日の下には消えそうな
薄闇の似合う奴だった
偶に行きずりオハナシするときの
稚拙な語りを気に入っていた
でも多分もう奴はいないのだ
ソレが多くにとって善だから指摘されないだけで
ソレがお上にとって都合良いから黙ってるだけで
今大通りで日の目を浴び
きらきらしく民に手を振るような
其処までの阿呆では無かったのに
暗色の紅がよく似合っていた
いっそ愛らしかった奴はもう居ないのだ
‹日陰›
挨拶をするときは脱帽しなさいと教えられた
朝の挨拶も帰りの時も帽子を取って頭を下げた
君と逢う時も別れる時も
君が最期の旅に出る日も
皆が鍔を抑えて顔を隠す中
帽子を取って笑ってみせた
君が笑ってほしいと言った
笑ってさよならしたいと言ったから
帽子を取って笑ってみせた
帽子に押し込んだ嗚咽の声は
綺麗に隠して笑ってみせた
‹帽子かぶって›
例えば席を譲るとか
例えば落とし物に声を掛けるとか
そのくらいでよかった
例えば傷を手当てするとか
例えば異常を訴えるとか
そのくらいでもよかった
そのくらいでよかった
そのくらいでも本当は
十分足りてた筈なのに
臆病の果てに残された
唯一絶対の選択肢
優柔不断が迫られた
完全なる二者択一
見捨てるモノを決める覚悟
救ったものに恨まれる覚悟
それを満たす強さなんて
持っている訳無かったのに
‹小さな勇気›
思わず肩が揺れる
悪戯っ子の君の声
平気な振りして一呼吸
何でも無い様振り返り
からかい笑う君の
姿が花吹雪の
向こうに見え
‹わぁ!›