空が白み始めた。
薄闇の下で鉛筆を走らせていた目に、
その光は思ったより強く響く。
花弁の雫を落としながら空を見上げれば、
徐々に星が消えていく様がはっきりと。
誰の声もない未だ寝静まる街は、
不思議とどこか知らない街のようで。
観察日記を置いた足は、
知らず何処かへ攫われていく。
‹静かな夜明け›
永遠の愛を誓うよと
差し出した薔薇の花束
暗い夜道に気付かずに
君は笑って受け取った
永遠の愛を示す花
君の所有権を示す花
17本の黒薔薇を
君は笑って受け取った
‹永遠の花束›
互いに以心伝心だったら
サプライズなんて要らないし
イベントもサンタすら必要無かったけど
互いに互いの心が分からなかったから
二人きっと夢を見ていられたのだろう
離れた手は二度と結ばれることはないけれど
それでも二人いられた時間は
確かに美しい記憶になった
‹heart to heart›
柔らかな毛並みを撫でる
君は心地よく目を細める
走れなく萎えた脚を
好物の飲み込めない喉を
傷むばかりの内臓を
抱えて尚君は静かにうたう
残される者に伝う悔悟さえ
光無き眼にはもう届かない
‹やさしくしないで›
水町の向こうに覚えておいて
月の灯の下忘れないで
決して消えない君の罪
ただ一人君は覚えておいて
‹隠された手紙›
さらば友よその背中に
夢果翔ける翼のあろう
さらば父母よその愛に
善なる国への道あろう
さらば子等よその掌に
美しき未来の光あろう
さらば片割よその心に
支う思い出の暖あろう
さらば現世よこの罪が
来世に漱ぐものならば
さらば我が名よ我が肉よ
また遭う事も有るだろう
‹バイバイ›
静謐な水面の美しい
写真を一枚裏書きに
君の名を書いて箱に入れ
幾枚幾日重ねてく
今は届かぬ君のポスト
代わりにいつか手渡しに
巡り巡った人生の
景色をいつか語るため
‹旅の途中›
「殺したくないよ殺したくないよ、
まだ二人で生きていたいよ」
「此処から出たいよ此処から出たいよ、
君と行きたい場所沢山あるよ」
「死にたくないよ死にたくないよ、
まだ君と一緒にいたいよ」
「此処から出たいよ此処から出たいよ、
二人で見たい場所沢山あるよ」
「あぁね、でもね、ごめんね、痛いね」
「君の最期を飾れるの、君の最期は僕だけなの、
とってもたまんない我慢できない」
「だからね、ごめんね、痛くしたね」
「ちゃんとずっと大事にするね、
綺麗にきれいに飾るからね」
「………どうしてそんな顔するの?」
‹まだ知らない君›
薄闇の似合う奴だった
ちょいとした路地裏から手招いて
ちょっとした悪事に突き落とす
暗部と呼ぶには可愛らしく
さりとて日の下には消えそうな
薄闇の似合う奴だった
偶に行きずりオハナシするときの
稚拙な語りを気に入っていた
でも多分もう奴はいないのだ
ソレが多くにとって善だから指摘されないだけで
ソレがお上にとって都合良いから黙ってるだけで
今大通りで日の目を浴び
きらきらしく民に手を振るような
其処までの阿呆では無かったのに
暗色の紅がよく似合っていた
いっそ愛らしかった奴はもう居ないのだ
‹日陰›