「今日ってクリスマスなんだって」
「なにそれ」
「どっかの国の神様の誕生日?」
「うわ面倒前提の話来た」
「木を光らせて祝ったらしいよ」
「豊穣の神かなんかだったの?」
「厳冬期っぽいから多分違う…?あと、切株に
白脂肪と赤草の実つけて食べるんだって」
「うぇぇ……正気……?」
「宗教上の決まりとかあれそれだと思う。
食べない時期あるやつとかあるじゃん」
「あぁ……それに比べれば食べられるだけマシかぁ」
「あ、あとでかい肉食べるって!でかい肉!」
「それ言いたかっただけだろもう」
「良いじゃん。この間のもうそろそろでしょ!」
「はいはい、じゃあ特別ってことで頭部割ってくる」
「やったー!ヒト種の脳って美味しいよね!」
「それは同感」
‹クリスマスの過ごし方›
「イブって前日じゃなくて夜のことらしいよ」
「あ、イブニングの略ってこと?」
「そうそう。だからこの『イブの日の朝』ってまあ
言葉的には中々狂ってるんだよね」
「夜の朝ってか。逆に浪漫になったな」
「それは分かんない」
「まあ、呼ばれた理由は分かったわ。猶予要るか?」
「要らないよ。間違いはとっとと処分しなきゃ」
‹イブの夜›
真白い皮膚を飾るリボンに、息が詰まる。
あげるよ、と笑う声がいやに響く。
「意味分かってるの、それ」
「もう子供じゃないからね」
そんな可愛らしい意味であれば良かった。
温かな指先が頬を撫で、瞼をなぞる。
あのね、と、一等の秘密を明かすみたいに。
「いろんなモノが見たいよ」
「あちこちの空気を吸ってみたい」
「心跳ねるような衝動が欲しい」
「沢山知って、沢山経験したい」
「だからね」
その口を塞ぐ手が今こそ欲しかった!
「この身体、みんな使ってよ」
‹プレゼント›
ふわりと過ぎた香りに零した声。
振り返る瞳が一つ瞬き問う。
いつも薄甘さを纏っていた黒髪が、
少し苦味のある爽やかさを跳ねさせて。
ふわり微笑んだ赤い頬、
恋を知った乙女の顔。
‹ゆずの香り›
42回紙を折ったなら月に届くという。
でも10回も行かず折れなくなってしまったから
切って重ねていこうとした。
でもあまりに小さな破片になりすぎたから
はじめの紙をとても大きくした。
折って折って折って切って切って重ねて重ねて
高く高く高く空に伸ばしたならそうしたなら
「また例の事件ですか」
「しかしガイシャはなんだっていつも」
「こんな紙の山に埋もれてるんですかね」
‹大空›
べー、と古びた音を立てて灯る赤いランプ。
隣の子は静かに眠っている。
振り返る運転手に首を振ると、また車体が動き出す。
流れていく車窓の景色を一つも見ないで
眠る子を可哀想に思う。
「帰りたくない」だなんて、
よりによってこのバスで言ってしまうなんて。
‹ベルの音›
『幸せな子供を見ると、とってもラッキーなことが
起きるらしい』とは、最近よく耳にする噂話だ。
それが『子供だけでもそうであれ』という夢物語なのか、『そんなことはありはしない』という皮肉なのかは、果たして定かではない。
氷すら区別出来ない路地裏では関係のない話だと、嘯いた奴はこの間凍りついて消えていた。
そも幸せなんてこの世界に有ったろうか、ソレはどんな形をしているのか。
例えば、そう、表通りを行く、小さな背の。
温かなコートと帽子に埋もれた、小さな影の。
両隣を歩く大人と繋がれた、小さな手の。
子供が。
赤い頬をした子供が。
黒い眼をした子供が。
視線の合った瞬間に笑って、後ろに呼び掛けて。
「……あ、あぁ」
弾かれたように走ってくる大人が二人。
何処かで見たような顔の、
何処かで聞いたような声の、
自分によく見るような色の、
大人が二人、手を伸ばして、
路地にはよく貧民の死体が転がっている
今日も昨日も転がっている
幸せそうに笑った子供が一人
けれど誰にも見返られずに
‹寂しさ›