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5/5/2024, 4:37:09 PM

桜の花びら
夜空の火花
暖色の落葉
染めゆく雪

君はいつも隣に居た
いつも居てくれた、から

君の居なかった日々も
とうに思い出せなくなったというのに

墜ち逝く桃花
俯く向日葵
見返られぬ木犀
頸落つ椿花

どうしてこの足は立ち上がれぬ
どうしてこの目は未来を見れぬ

どうして、君は

<君と出逢って>

5/5/2024, 9:18:09 AM

おいてかないでと声がする
一緒にいてよと声がする
僕はそれに答えられない
僕はそれに応えない
一人にしないでと声がする
何処にいるのと声がする
僕は口を開けない
僕は声を出さない

置いてきた友の誰とも
一緒に居た友の誰とも
それは誰とも違う声
先行した友の誰とも
見失った友の誰とも
それは誰かも分からぬ声

気付かれては生きられない
ナニモノカの声がする

<耳を澄ますと>

5/4/2024, 5:46:43 AM

ころり、と彼女が私にくれた
きっと素敵よと彼女が笑った
それを甘いと呼ぶのだと
それを赤いと呼ぶのだと
彼女と私が であることを
それが    事であると
私達は、知ってはいけなかった

蛇よ、知ってはいけなかったのだ

<二人だけの秘密>


ぱちり、と張られる頬
君は困ったように笑っていた
「駄目だよ、こんなことをしちゃ」
私は黙って手を見下ろした
悲しくて手を見下ろした
「悪い子を誉めたらいけないよ」
痛みのない頬を撫でる君
水面みたいに優しい君
君に正当な言葉を伝えるだけのこと
どうしてこんなにも難しい

<優しくしないで>

5/2/2024, 10:04:29 AM

始めは一つの声でした
ゆるりゆるり伸びていく声が
重なるのも直ぐでした
高くは弾み 低くは奮わせ
重なり合って色をなす
それは一つの歌でした

弦を叩いた優しい響き
革を叩いた重い衝撃
金を叩いた煌めきの波
木を叩いた暖かな転がり
歌に寄り添い色を染める
それは一つの曲でした

並ぶ足裏が地面を擦り
張られた生地の一揃い
拍子を取る手 骨鳴る指先
曲と共に物語を成す
それは一つのステージでした

やがて床も笑いだし
壁もぽろぽろ震わせる
拍手代わりを降らす屋根に
遂に柱は悲鳴を挙げ

それは

それは一つの心中でした

<カラフル>

5/1/2024, 12:51:53 PM

なにもかもがあったのだ。
暖かな日差しも、柔らかな薄曇りも
緑咲く大地も、さざめく海も
鮮やかな星々も、心弾む歌声も
丁度良い服も、沈み混む寝床も
気の置けない親友も、健康的な身体も
なにもかもがあった。
なにもかもがあったのだ。
「それでもお前は行くというの」
零れた果汁が染める袖
蕩けるように甘い芳香
詰るような、責めるような
それが精一杯の抗議と知っていて
「それでも行かなきゃならない」
白み始めた水平線
遠く聞こえる鐘の声
小さく引かれた袖の先が
同じ色に染まりゆく

………
小煩いアラーム、半端に日差しの落ちる床
草葉も人のざわめきもなく、風だけが吹き荒ぶ音
何もかもがないこの場所で、
一人きりのこの場所で
「夢なんかじゃなく、お前の場所まで辿り着くとも」
花を編んだ指飾り
揃いの白こそ誓いの証

<楽園>

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