ざざん、と灰色の波
その隙間に消えていく小さな輝き
肩に触れた温もりに思わず振り返ると
吃驚したように手を引っ込めた君
「何、してたの?」
「……あ、あぁ。ボトルメールって奴」
「ごみ捨てじゃなくて?」
「夢の欠片もないな。小瓶に手紙を入れて
流すっていう、浪漫の話」
「……ふぅん」
ぱらぱらと海風に散る短い髪
無感動に水平線を眺める黒から目をそらす
「病み上がりが体冷やすな。家に帰るぞ」
「……分かった」
あっち、と指差された先に嵩張ったスーツケース
車輪で砂浜を漕がなかったことを称賛しつつ
「家っていっても、覚えてないけど」
「そう、だな」
きちり巻かれた包帯、完治した傷痕
美しい浪漫ばかりを語った声に見る影は
「まぁそのうち慣れてくれ、暮らしにくいって
ことは無いだろうし」
「そうかな」
「当然」
ざざん、波打つ灰色
揺れを、揺らぎを、封じ投げた小瓶
「こちとら、君の世話には慣れてんだよ」
もう二度と『君』には会えずとも
<届かぬ想い>
「無神論者じゃなかったっけ?」
「宗教信仰してないだけ。八百万の神は信じてるよ」
「出た日本人のおかしいとこ」
「だって一柱の神様が全員分常に観てるとか、
其処まで行かなくても有限数で採点してるって
今地球人口何人だって思っちゃうよ、やっぱり」
「そこはほら神様だからどうとでもね?」
「それ言ったら全部そうじゃん」
「それはそう」
「だったらその辺に在るモノ全部に神様が宿ってて
何処で何やってもナニカしらは見てる、の方が
お天道様が見てなくても悪い事出来ないなぁって
考え諭し易いんだよねえ」
「近年の監視社会じゃんやば」
「確かに」
「で」
「うん」
「君のカミサマは大丈夫そう?」
「うん、カメラもマイクも切れたっぽい」
「おっけ、向こう着いたら着衣水泳からの
全品お着替えね。最終はその後で言うわ」
「ありがと助かった」
「しっかし……ヤンデレって荒御霊だったんだね」
「それはガチ神に目ぇ付けられるからやめよ?」
<神様へ>
「…ちょっと此方向いて」
「なぁに、って……もぉ、写真撮るなら言ってよ」
「桜拐われ感あったから」
「えー?見せて」
「ほい。……桜吹雪ならって思ったが、あんた本当
青空似合わないな」
「酷くない?」
「色白過ぎるんだよ。そろそろ帰るか」
「あ待って待って。後ね桜シェイク飲みに行きたい」
「……何処まで」
「えっとぉ、ここのお店」
「それ買ったら帰るぞ」
「心配性だなぁ、大丈夫だよ」
「足元見てから言え雪女」
「……あららぁ、ごめんなさいね?」
<快晴>
「地球って丸いじゃん」
「うん」
「遠くまで行っても、同じ所に戻って来るから
『果てが無い』って言うじゃん」
「そうだね」
「じゃあさぁ、『果てが無い』宇宙もさぁ、
ずっとずっと全部の星も見えないくらい、
重力も引力なんにもなくなるくらい
遠く遠くに行ったらさぁ、
案外元の場所に戻ってきたりするんじゃない?」
「……そうかもね」
「だからさ、待たないふりしてて。
空でも地面でもなく前見てて。
そしたらさ、帰ってきた時一番に気付くでしょ」
「……うん」
<遠くの空へ>
君に出会えて良かった、と
息が詰まる程嬉しい、と
静かに流れていたBGMに、
君はぱちりと視線を上げた
「いっつも一緒にいると、有難みが薄れちゃうね」
そうだね、と頷いて窓を見る
君は少し寂しげにストローを回す
「だからね、いつだって言えると思ってたんだ」
そうだろうね、と目を伏せる
そう思っていたのは君だけじゃ無い、ということも
「どうしようね、僕もう永遠に」
「君に本当の事言えないや」
……ごめんね、と
交わすことの出来ない言葉が透き通る
「 」
、と
其処にはもう、ひとりきり
<言葉にできない>
「あれは桜?」
「遅咲きの梅だね」
「あっちは?」
「惜しい、アーモンド」
「……あれは?」
「白木蓮。春の白い樹花が全部そうな訳じゃないよ」
「……桜難しい」
「そう?あ、その緑と黄色の花は桜だよ」
「桜ってピンクじゃないの…?!」
「有名所はね。後あの濃緑と濃桃で桜餅みたいになってるのもそう」
「桜って花終わってから葉っぱじゃないの?!」
「有名所がね。あくまでね」
<春爛漫>