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ざざん、と灰色の波
その隙間に消えていく小さな輝き
肩に触れた温もりに思わず振り返ると
吃驚したように手を引っ込めた君
「何、してたの?」
「……あ、あぁ。ボトルメールって奴」
「ごみ捨てじゃなくて?」
「夢の欠片もないな。小瓶に手紙を入れて
 流すっていう、浪漫の話」
「……ふぅん」
ぱらぱらと海風に散る短い髪
無感動に水平線を眺める黒から目をそらす
「病み上がりが体冷やすな。家に帰るぞ」
「……分かった」
あっち、と指差された先に嵩張ったスーツケース
車輪で砂浜を漕がなかったことを称賛しつつ
「家っていっても、覚えてないけど」
「そう、だな」
きちり巻かれた包帯、完治した傷痕
美しい浪漫ばかりを語った声に見る影は
「まぁそのうち慣れてくれ、暮らしにくいって
 ことは無いだろうし」
「そうかな」
「当然」
ざざん、波打つ灰色
揺れを、揺らぎを、封じ投げた小瓶
「こちとら、君の世話には慣れてんだよ」
もう二度と『君』には会えずとも

<届かぬ想い>

4/16/2024, 1:14:41 PM