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3/25/2024, 10:01:50 AM

頭に感じた硬くもべとりとした感覚。
反射的に空を見上げれば、一面のカラフルに思わず舌打ちした。
こっち、と呼ぶ声のまま潜った軒の上、がらがらべたべたと騒がしく。
「今日は一日晴れじゃあなかったか」
「その筈。通り飴だといいんだけどね……」
まだ硬い内の破片を払う横、重く粘る甘さに早々拭うのは諦めて、せめてと髪を解きながら。
「うわ、家の方チョコボンボン降ったって」
「は?チビ共庭遊びの日だったろ」
「チョコの時点で屋内に間に合ったみたい。でもやっぱりアルコール臭やばくて、みんな寝かせたらしいよ」
「また拗ねるな……。次の雨は?」
「予報通りなら明日。チビちゃん達のご飯が終わる頃には」
「はー……了解」
がらりがらりと飴が降る。
硬いままに転がり積もればまだ良いものを、地上にぶつかる度べたりべたりと溶けていく。
日頃は鬱陶しい雨も、コレを洗い流してくれるなら待ち遠しいばかりだが。
「どうしよっか、傘と靴買ってく?」
「……いや」
差し出されたハンカチを押し返して、少し先の自動ドアへ視線を向けた。
「明日に帰ると連絡しといてくれ」
「それは、」
ひとつ、ふたつ、息をする間。赤らんで見える耳。
「……そういう言葉は、期待、しちゃうよ?」
「は、抜かせ」
喫茶店も商店も、東屋だって近くにあったくせに。
「『この軒』を選んだのはお前だろ。なあ?」
つり上がった口許を、隠せても居ない癖に。

<ところにより雨>

3/23/2024, 10:13:20 AM

ちょっとしょっぱいキャラメル味。
期待に期待を重ねて食べた飴は、
あんまり好みの味じゃなくて、
笑われながら背を叩かれた。
「お前は此方が好きでしょう?」
嘗め終わったらゆっくりお食べ、と
積まれたのは至極ありふれた米菓。
お爺ちゃんの作った可愛い湯呑みに
熱くないお茶を入れてくれるお婆ちゃん。
「わたし、この特別の方が好き」
炬燵の両隣からふわふわと
柔らかく撫でる手が嬉しくて。

<特別な存在>

3/23/2024, 2:39:20 AM

「こんなの作ってなんになるのさ」
「生者の心の安寧に」
「此処にはなんにも居ないくせに?」
「信じる限りは聞いている」


「こんなの作ってなんになるのさ」

「お前もどうせ、居ないくせに」

<バカみたい>

3/22/2024, 10:17:09 AM

手を繋いで走っていた。
後ろから来るモノに、追い付かれてはいけなかったから。
時々小さく手を引かれたけど、その度に強く引き返して走り続けた。
追い付かれてしまわぬよう、力付くで引き続けた。
走って、走って、走って

突然強く腕を引かれた。
転んでしまったのかと振り返った。
繋いでいた、握りしめていた手を見た。

其処には誰もいなかった。
後ろにすら、何も無かった。

開いてみた手の中で
小さな小さな指が
黒く干からび潰れていた。

直ぐ隣に居た筈の人を、
顔も声も思い出せない程、
気を遣っていなかったことに気が付いた。

<二人ぼっち>


美しい時間だった。
君と出会ってから、
沢山重ねてきた日々。
夕焼けを背に笑って、
紡がれた筈の言葉。
「……教えてほしいよ」
君の残した走馬灯の中、
いつも、いつも、何回も、
三文字目から先を
聞くことができなくて。

<夢が醒める前に>

3/20/2024, 11:02:28 AM

集中なさいとシャーペンの頭でつつかれて
慌ててノートに目線を戻した
「どんなところに惹かれるんだい」
「きらきらしてて優しい所」
「アレは化粧の賜物で、八方美人の渾名だが?」
「そういうことじゃない」
「……心や精神性なぞ目じゃ分からんと豪語していたな?」
「そういうことでもない」
「恋は盲目?」
「似てるのは認めるが違う」
「じゃあなんだい、勉強会ほっといてまで夢中なのは」
「……きらきらしてるだろ」
炎天下のグラウンド、部活に勤しむ人々は
皆汗だくで煌めいて
「それで優しいだろ」
後輩にはマメに休ませる癖、一人先生や先輩との軋轢に走る背中
「……ああ、成程」
酷薄な目が窓へ向く
心底憐れんだ声が言う
「お前、アレを獲物と見たな」

<胸が高鳴る>


外から来た人が言いました。
此処はおかしいと。
連れていくから逃げようと。
私は首を傾げました。
別におかしな事なんて無かったから。
外から来た人が言いました。
そんなものは食べ物じゃない、
そんな仕事は危険すぎる、
そんなーーを崇めるなんて、
あ、と
思った時には、
外から来た人は、

今日は新鮮なご飯でみんな嬉しそうでした。
私には釣りの才能があるそうなので、
明日もご飯を釣りに行きますね。

<不条理>

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