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2/28/2024, 10:27:58 AM

ぱっと伸ばされた手は、漂っていた花弁を取っていた。
「藍色だ、珍しいね」
「違うよ、ここら辺じゃそれが普通の色」
「そっかぁ」
くるり陽に透かして遊ぶ指先、その繊細によく似合う。
空気に満ちる透き通るような甘い香り。
ふわふわと栗色の髪をかき混ぜた風は、僅か刺激の有る個性の強い甘さを引いた。
周囲の視線が何処に有るか、よくよく理解しきって口を開く。
「気に入ったなら、ソレに替える?」
「好きだね、その質問」
蒼の花、翠の花、黄の花、橙の花、辿った軌跡全て。
そして膨らんだ頬までがお決まりの。
「君がくれたからコレが良いの」
爛々と咲き誇る、紅の花弁を飾って。
どの花よりも華やかに、美しい光が笑っていた。

<遠くの街へ>

2/27/2024, 1:43:31 PM

彼女はいつも真面目だった。
泣き言を言いつつも
魂が口から出ていようとも
どれほど遅くても、期限までには
必ず終わらせる人であった。
「だって、どんなに待ったって
 私がやらなきゃ終わらないのよ」
「後回しにして後で詰むより
 ゆっくりでも進んで
 すっきり終わって休む方が
 すごく気楽なのよ」
「まあでも」
かつん、とペンが手帳を叩く。
「見てわかる通り、しない訳じゃないわ」
急ぎの用件と、そうでもない課題の並んだ画面に、
書き散らされたメモ用紙と、丁寧な私物の手帳。
机の上の優先順位はばらばらぐちゃぐちゃで、
効率も何もあったものじゃない。
「結局皆、終わり良ければすべて良し。だからね」

<現実逃避>

2/26/2024, 1:17:02 PM

GPSにカメラに盗聴機
別に良いよと彼女は言った
「私、お店は一人で回りたいの」
その代わりにね、と彼女は言った
「貴方も同じにしようね?」
GPSにカメラに盗聴機
一秒も一歩もズレを許されない生活を
「だって、貴方は私に求めたよ?」

<君は今>


とろりとろり薄灰のクリーム
刺したナイフはじっとり重く
かろうじて火の通った生地
ドライフルーツで誤魔化して

初めてには上出来で
美味しいとは言えず

一人分には大き過ぎるケーキ
椅子には埃が積もるまま

<物憂げな空>

2/24/2024, 2:04:26 PM

動物の子供
人間の赤子
成体の小動物
群れる虫けら

『でも君達は わたしたちを
 ソレに数えてはくれないね』

手の中で押し潰された
名も知らぬ雑草の蕾

受粉を終えて
成熟を待つのみだった種子

嘯くような風と共に
綿毛が遠く旅立ち行く

<小さな命>

2/23/2024, 11:30:05 PM

ありがとうと言うと
ごめんねと返ってきた

大切にすると言うと
馬鹿だなあと返ってきた

好きだよと言うと
同じだねと返ってきた

忘れないよと言うと
思い出にしてと返された

いつまでもと言うと
死ぬ迄で良いと返された

毎夏君に会いに行く
墓石は何も応えないけど

<Love you>


向日葵、という言葉が並ぶ中に、
一人だけ、違う花の名を上げた子がいた。
「向日葵はお日様に向かって咲くのよ。
 それじゃあ別個体じゃない」
成る程、そういう考え方も有ろう。
とはいえ、その子の上げた名前も、
星空ならまだしも、連想は付きにくい。
「そう?直視出来るのなんて、
 木漏れ日くらいじゃないかしら」
常緑の隙間を埋め香り立つ金銀。
はらはらと落ちる小花。
やわらかな秋の日差しに、
確かによく似ていたのかもしれない。

<太陽のような>

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