「あの星は?」
「10位だったかな」
「あっちは?」
「あー………230」
「……適当言ってない?」
「本当だよ」
「もー……。ね、あとどのくらい?」
「……10」
「それも億年?それとも光年?」
「分かってるでしょ」
「はーい」
「ね、この星の光は何処まで届くかな」
「観測できる者が居る処まで、どこまでも」
「そっか。あの星みたいに道標になれたら良いな」
「あんなに流星群が来るんだ、きっと強い光になる」
「ふふ。……じゃあね、お待たせ。さいごのお願いしても良い?」
「もう良いの?」
「良いよ、君まで危なくなっちゃうでしょ」
「……何を願うの、お嬢さん」
「何処かの星でね、この星を観測できたら。
私の名前を付けてくれる?」
「それで良いの?」
「うん」
「分かった。……ついでに教科書にも載せてくるよ」
「ふふ、ありがと。」
<特別な夜>
マリンスノーって知ってる?
海底に雪が降るなんてロマンチックだよね。
海を模したスノードームを指して笑う君に、
その雪の正体を教えることは出来なかった。
<海の底>
水と炭素と塩分と、それから色々沢山の素材。
それがあれば人間を作れるとは何処かのお伽噺だったか。
人工知能、AI、バーチャル体、画面向こうでも良ければ。
写真、絵画、動画。石像、人形、ヒトガタ。
どうにもこうにも届かない。
<君に会いたくて>
清廉潔白と呼ばれた人だった。
恋人を失い酷い悲嘆に暮れながら、それでも日常に復帰した強い人だった。
素晴らしい人、だったのだ。
「何……で……」
目が覚めた暗い部屋、四肢を固定する固いベット。
いくつも床に落ちた黒髪の塊。
無造作に投げたされた青白い肌。
鉄臭く淀んだ空間。
写真に手を合わせる背中が、一周回って異常なほど。
「やっぱり足りなかったか。」
見下ろす目は冷たく、光無く、感情もなく。
がらがらと酷い音を立てたカートの中身はおぞましく言葉に出来ない。
「あまり暴れないでね、麻酔が切れてしまうよ」
「一体、」
「君が言ったんだろ、手伝えるならって」
俺じゃ上手く出来ないから。
貼り付いていた薄い微笑みすら、浮かべること無く。
「彼女が喜ぶと思うのか!」
「うるさいな、彼女の好物も知らない癖に」
黒髪の美しい女性が笑う写真の前。
椀に積まれた白い玉。
床に転がるいくつもの頭部、
落ち窪んだ二つの穴。
「カニバリストと同じ地獄に行く方法、他にあるなら教えてくれよ」
◯月✕日
明日は待ちに待った家族旅行!初めての飛行機だからちょっと緊張しちゃう!
お母さんがすごく憧れてた国なんだって。
お父さんも料理が美味しいんだぞって、パンフレットを沢山見せてくれたんだ。
おじいちゃんとおばあちゃんと友達のお土産も今から迷っちゃうね。
早く明日にならないかな!
<閉ざされた日記>
「って言えば焚き火じゃない?」
「うん?……あ、歌か」
そうそう!と指差された赤色は、残念ながらポインセチアだったけれど。
「今は出来ないんだったっけ」
「らしいね。一度くらい芋とか蜜柑とか焼いてみたかったけど」
「風情が死んでる……」
「良いじゃん!」
発声と合わせたかのような鋭く冷たい一迅。落ち葉を巻いて通り抜けたそれに、寒太郎と呟かれては。音楽と国語の教科書、どちらで突っ込みを入れるべきか少し悩んで笑ってしまった。
<木枯らし>