私の友達に佐々木という奴がいる。
あいつは俗に言う天才と呼ばれる人種であった。何をするにも完璧で、運動も勉強も人としてもできていた。自信家なところもあるが、実力があるやつが言えば納得もするしかない。
別の友達を通して知り合った佐々木は他人との距離を詰めるのが上手いのか、話しをしていて気まずい雰囲気を感じたことはなかった。
進路は名門大学に行くことが決定している佐々木と平凡な私。結局、卒業してからは縁が切れてしまった。虚しくメールだけが繋がっているが、互いに忙しい、気まずいと思いメールをしていなかった。
ある時、偶然、佐々木にあった。彼は私のことを覚えていたようで、こっちに向かい手を振りながら走ってきた。
相変わらず、一部の人達から犬のようだと言われた部分は治ってなく、少し懐かしくなってしまった。
私も手を振り返すと、スピードを上げて来た彼は何かに気がついたのか酷く驚いた顔をして来た。
「どうかしたの?」と聞くと、指にはめている指輪について聞かれた。まだ結婚式はお金や仕事の関係でできていないが、婚姻届は市役所に出したことを伝えると、ますます顔が酷くなる。
それは、嫌な夢を見た時のような何かを堪えるような表情にも見えた。
大丈夫かと聞くと、「大丈夫。」と震えた声で答えた。
「ただ、もっと早く行動してたら良かったのに、馬鹿だなぁ
って思って。」
次に諦めた顔で言うものだから、本当にあの一瞬で何があったのか。私には分からなかった。ただ原因は私である事だけは理解できた。
失った時間は帰ってこない。佐々木という男は今日、それを思い知った。自業自得。本人にしてみれば、後悔が積もるばかりだろう。
私の幼馴染であった、隣の家のゆうちゃんは高校生になってから、随分と変わった。
中学生の頃では、関わらなかった不良の集まりとよくいるの高校生に成ってからはよく見た。
入学して、クラスが別れ約半年。部活に勉強とお互い忙しく、話すこともできないような生活をしていて気がついたら、あの子とは関係が切れていた。
それからは何となく気まずくなって距離を置いて過ごし卒業してしまった。あの子の進路など、私は知る由もなく連絡もできずに大人になっていた。
幼馴染という関係は、強い絆で結ばれていて大人になってもあり続けるものだと思っていたが、実際のところ薄く脆く切れやすかったのだ。
ある日のことだ。
働き始めてからやっと安定した生活をおくれる様になった。多忙な毎日を過ごし、あの子のことをすっかり忘れていた。
きっと、あの事が無ければこんなにも私の記憶にあの子は残ってはいなかっただろう。
適当に流していたニュース番組には、あの子がいたのだ。
ゲストとして参加していたあの子は姿は変わっておらず、あの高校生の時のままであった。
大人になったあの子は、やっぱり中学生の時と随分と変わってしまった。ピアスは痛いからしないと言っていたくせに赤い派手なピアスをつけている。
何故か少し悲しくなってしまった。
結局、何の関係にも成れなかった私がこう思うのは可笑しいかもしれないが、思わずにはいられなかった。
思い出の中の貴方だけはあの頃と変わらない子供のままでいて、と。
野田東高校の三棟四階廊下には、女の絵が飾られている。真っ直ぐな黒く、宝石のような髪に紅い唇で虚ろな顔をしている女だ。
私はこの絵に一年前、惚れたのだ。
この高校は、総合学科で様々な教室が存在する。そのため、生徒によっては三棟四階に用事がない。私もその一人であった。三棟四階は実習室で、何故そこに女の絵画が飾ってあるのか学校の不思議の一つだ。
偶然、先生を探しているとき三棟四階まで行きこの絵を初めて直接見たのが始まりだった。
今では、部活終わりの遅い時間まで女の絵画まで行き、絵を見て満足して帰ることを繰り返している。
しかし私は最近は、周りに誰もいないことを確認して絵を褒めている。友達に言えば間違いなくキチガイだと言われるかもしれないが、既に習慣となり始めている。もう止めることはできない。
そんなことを思って、気がついたら卒業式であった。
今日が、高校生最後の日。
式が終わったあと、友達の声を無視して私は三棟四階まで駆け上がった。ついたときには、足がヘロヘロで息が切れていて春なのに汗をかいた。
最後にこの絵に言わなくてはいけない。
「ずっと綺麗だった!愛してる!」
野田東高校卒業式、三棟四階廊下で私は愛を叫んだ。
モンシロチョウ。それを聞くと、小さい頃はゲームでよく手捕まえてお金稼ぎをしたことを思い出す。
今にして思えば、もっと効率的なお金稼ぎを考えてすれば良かったのに、当時は無駄なことをしていた。
けれど、そのぐらい昔の頃の私の方が今よりもずっと純粋にゲームという物をプレイしていたのだから成長に悲しさを覚える。
下心と欲に忠実になってゲームをするのも楽しいが、昔の頃のように純粋な気持ちでゲームをしたい。
もう、あの頃には戻れないことを知ってしまった初夏の夜の話。
「一年後にまた会いましょう。」