白樺

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 私の友達に佐々木という奴がいる。
 あいつは俗に言う天才と呼ばれる人種であった。何をするにも完璧で、運動も勉強も人としてもできていた。自信家なところもあるが、実力があるやつが言えば納得もするしかない。
 別の友達を通して知り合った佐々木は他人との距離を詰めるのが上手いのか、話しをしていて気まずい雰囲気を感じたことはなかった。
 進路は名門大学に行くことが決定している佐々木と平凡な私。結局、卒業してからは縁が切れてしまった。虚しくメールだけが繋がっているが、互いに忙しい、気まずいと思いメールをしていなかった。
 ある時、偶然、佐々木にあった。彼は私のことを覚えていたようで、こっちに向かい手を振りながら走ってきた。
 相変わらず、一部の人達から犬のようだと言われた部分は治ってなく、少し懐かしくなってしまった。
 私も手を振り返すと、スピードを上げて来た彼は何かに気がついたのか酷く驚いた顔をして来た。
 「どうかしたの?」と聞くと、指にはめている指輪について聞かれた。まだ結婚式はお金や仕事の関係でできていないが、婚姻届は市役所に出したことを伝えると、ますます顔が酷くなる。
 それは、嫌な夢を見た時のような何かを堪えるような表情にも見えた。
 大丈夫かと聞くと、「大丈夫。」と震えた声で答えた。
 「ただ、もっと早く行動してたら良かったのに、馬鹿だなぁ         
  って思って。」
 次に諦めた顔で言うものだから、本当にあの一瞬で何があったのか。私には分からなかった。ただ原因は私である事だけは理解できた。
 失った時間は帰ってこない。佐々木という男は今日、それを思い知った。自業自得。本人にしてみれば、後悔が積もるばかりだろう。

5/13/2024, 1:59:34 PM