月凪あゆむ

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5/3/2023, 11:10:26 AM

ありがとう

 お前たちは何度、絶望を味わえば足掻くことを止める?
 お前たちは幾度、自分の無力さを味わえば、手を止める?

 そんな、科学者の問いかけに、私は答えた。
「ねえ。私たちはただ、幸せになりたい。そのために足掻いて、手を動かして、自分の道を切り開くの」
 馬鹿馬鹿しい、と科学者は嘲笑う。
「まるで、蟻だな。悪魔よ」
 ふと、私は笑む。
「……そう、だよね。私たちは、人間にはなれない。……でも!」
 その、刹那。

 パァッと、何かが弾けた。
 それは、目を殺られるような、眩しい光だった。
 その音と光に、科学者たちが怯むその時に。
「私たち」小さな悪魔は飛びだす。

 ──外を、目指して。

「待て! お前たちだけで、どうこの世界を生きれるというのだ!」

 そんなの、わからない。
 けれど、進まなければ私たちに待ち受けるのは「只の死」だ。なら、1歩だとしても。
 自分の道を、私たちは歩きたい!
 それがたとえ、ありのような1歩でも。
 自分で、この眼で、この足で。
 この、大きな世界を、見たかったんだ。


 ──本当に、大きな世界だ。
 私は初めてのはずの太陽の光を、この目に写そうとした。けれど。
「太陽を直接見るのは、危険だってさ」
 先ほどの、弾けたはずの光が、ひとの形でとなりにいた。
 
 ──それは、世界のなかの、不思議の存在。人間はそれを「天使」と呼んでいるらしい。
 対して私は誰か。
 
 ──真っ黒の翼の、ひとの形の体。
 
 科学者たちは「悪魔」と呼んできていた。
 近くには、この天使以外の影がない。仲間たちはみんな、散り散りになったのかもしれない。
  
 さて、と。
「仲間を探さなくては」
そこまで考えて、ふと思う。
「なぜ、あなたは協力してくれたの?」
「……うん。なんでだと思う?」
 キョトンとした顔ののち、質問に質問で返され、言葉に迷う。
 ──?

『どうして、君は助けてくれたの?』
『だって、私は』
 ──?

 なにか、私は「忘れている」気がする。
 この天使に関する、何かを。

「いいんだ。忘れていても」
「え?」
「本来、悪魔が天使を助けるのも、天使が悪魔を助けるのも、この世界にとっては【タブー】に近い。だから君は、記憶を封印されたんだ」
「……?」
 ますます、分からない。
 困惑している私に、天使は言う。
「これは、ずーっと前の、恩返しだから」
 そう言い、「彼」は微笑んだ。
 なにか、見たことがあるような、柔らかな笑顔で。
 その時、一陣の風のなか、彼は言った。


 ──ありがとう。あの日あの時、僕らを助けてくれて。


 ほんの一瞬、私が瞬きしたその一瞬で、彼は消えた。
 痕になったのは、意味の分からない涙と、忘れていたはずの、あの少年の微笑みの記憶。



 ──これは、悪魔の少女が天使たちを助け、天使の青年が人間から悪魔たちを助けたという、なんてことのない、おとぎ話。

4/29/2023, 10:38:59 AM

風に乗って

 ねえ、ひとは死んだら風になる。
 そう言ったひとの言葉は、本当かな。

 今はただ、「君の死」が恐いんだ。
 風に乗って、それか風に成って、僕のところへ来てくれる?
 そんなの。全然嬉しくない。

 もっと、一緒に色んなものを見て、知って、聞いて。
 もっと。君ともっと、一緒に在りたいんだよ。
 だって、僕が「風に成ろう」とした、あの日。
 君は現れた。
 そして、僕の生を、求めてくれた。
 
 だから、ねえ。
 なんで、君に先を越されなくちゃいけないかな。
 そして、君は言った。
「追いかけたら、追い返すから」
 なんで、苦しいはずの君に見破られちゃうかな。
 やっぱり僕は、まだまだだ。

 せめて、君が「風に成る」までの少ない時を。僕だけが、独占できたらいいのに。
 君って、いつもずるいよね。
 でも、やっぱりね。そんな君が。

「大好きなんだ」

4/18/2023, 11:12:25 AM

無色の世界

 「無色の世界」とは、どんなものだろうか。
 なーんて、ちょっと小難しく考えてたらダメよ。

 無色。色のない世界。何もない世界。
 すなわち、眼が機能していない、視界。


 なんて、きっと私たち「有色の世界側」、つまりは目が見える側には、分からないもの。きっとね。
 だって、そうでしょう。
 無は有に成れず。有は無に慣れず、よ。

 だからこそ。
 無は無を制せる。
 つまり、無を受け入れることで、無である自分を、解るの。
 そして、有も又、無を解れば、共に在れるの。

 一応、それなりに簡単に言うとね。
 

 目が見えないひとは、ほぼ目が見えるようにはなれない。
 目が見えてたひとは、いきなり目が見えなくなることを、すぐには受け入れられないことが多い。
 
 でも。

 目が見えないことを、良しとすることで、自分のことが理解出来る。
 自分の身体を、初めて本当に理解することで、見えない自分を、そのままで有ろうと思える。
 そして。
 目が見えるひとでも、理解し、尚且つ望めば、見えない目に寄り添うことも、きっと出来る。



 ……まあ、この話はね。あなたがもっと大きくなったら、お父さんに聞いてみるといいわ。
 ふふ、仏頂面で、今とおんなじように答えてくれるはずよ。
 なんてったって、私たち二人の考案のものだから、ね。  

4/14/2023, 10:47:36 AM

神さまへ

 なんで、俺はこんな身体なんだ。
 俺は嘆いた。
「あなたの体が、生きたいと言ってたからよ」
 医者はそう言った。
 そんなはずはない。こんな、全身包帯で巻かれた、こんな焼けた身体が。
「……勘違いするんじゃないよ。言ったのはあんたじゃない。あんたの体の、細胞だよ」
 なんだって?
「あんたらはね、産まれるまえから、生きることに貪欲なんだ」
 馬鹿なことを。
「あんたが、どんな悪党かなんて、あたしら医者には、全く関係ないことなんだ。まったくね」
 なら、俺はまだまだ、この痛みと向き合わなくてはならないのか。
「……まあ、この火傷は。あんたが殺した人間からの恨み、或いは神さまからの天罰。とでも思うんだね」
 そう、その医者は言った。
 そうか。それなら納得できる。

 しかし何故、俺は喋っていないのに、会話になっているんだ?

「そんなの」
 ふっと、視界から医者が見えなくなった。
 ……いや。正しくは、視界がなくなったのだ。


「ここが、神さまのいる場所へ魂を送るか、地上へ返すかの、選定の場だからね」


「あんたは、体が生きようとしている。加えて殺人犯は、地上にて人間らしい裁きを受けないと、ね」
 その医者は、最後にそう言って、俺の焼けただれた身体に触れて、わざと痛みを与えた。
 ああ、そうか。
 「神さま」はどうあっても、俺を生かしたいらしい。


 その記憶は。
 地上へと返された俺には、残らなかった。
 何一つ、全く。
 神さまよう、これで満足か?

4/12/2023, 5:06:18 AM

言葉にできない

 どう考えたらいいんだろう。
 ひとから言われた。
「悩み、なさそうでいいよね」
 えぇ……?
 そう見えるの?

 言わないだけで、悩みだらけよ。
 だって、一つの言葉にしちゃったら、そこで「固定」されちゃうでしょう?

 ひとは大抵、よほどでない限り「長所と短所」がある。
 例えば
「あの子、ウザい」
 と一言言えば、きっと周りは
「あ、あの子のこと嫌いなんだな」
と解釈される。
 でもよく聞いて。
「あの子「いつでも元気なのマネ出来ないから」ウザい」
だったら?

 一つは肯定して、一つは否定している。
 矛盾だと、言われてしまうかもしれないけれど。
 元来。人間の感情は「矛盾だらけ」だと思うの。
 でも、それは周りを困惑させる。
 だから私は、あまりオーバーには感情を言い過ぎないようにしてるの。


 不確かなことは、言葉にできないだけで。
 これでも、実はいろいろ考えてるんだからね。

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